アフリカ最大の湖であるビクトリア湖は、地図では内陸の海のように見えます。ところが、近くにあるタンガニーカ湖のような千メートルを超える深さはありません。広さと深さが必ずしも比例しない、わかりやすい例です。
水を受け止める器が違うためです。ビクトリア湖が広がるのは、東アフリカ地溝帯の東西の枝に挟まれた、広く浅いくぼみ。断層沿いの深い溝へ水がたまったタンガニーカ湖とは、すぐ近くでも生い立ちが異なります。
地溝帯の「中」ではなく、二つの枝の間にある湖
東アフリカの大きな湖をまとめて見ると、すべてが大地の裂け目を満たしているように思えるかもしれません。けれども、ビクトリア湖は西側の地溝帯と東側の地溝帯の間に位置しています。
周囲の大地が長い時間をかけて持ち上がり、傾きが変わると、それまで西へ流れていた河川の排水も変わります。2024年の湖底掘削計画の研究報告では、西側の隆起に伴う流路の反転や水のせき止めが、湖の前身をつくった過程として整理されました。
巨大な壁で川が突然ふさがれた、と考える必要はありません。もともとの傾斜が小さい土地なら、広い範囲の高さが少しずつ変わるだけでも、水の向かう先は変わります。湖の成立には、周辺の地形全体の変形が関わっていたのです。
深い溝と浅い皿で異なる、水の広がり方
タンガニーカ湖のような断層盆地では、岸から湖底へ急に深くなる部分があります。一方、ビクトリア湖の全体的な形は、横に広い皿に近いもの。少量の水という意味ではなく、横幅に比べて深さが小さいということです。
浅い皿に水を足すと、深さだけでなく水際の位置が大きく動きます。現実の湖岸にも、崖のように急な場所と、ゆるやかな低地があるでしょう。同じ水位上昇でも、低地の側では水が岸から遠くまで広がるのです。
湖の面積だけで水の量を推測できないのは、この器の違いによります。貯水量を考えるには、水面の輪郭だけでなく、その下の深さの分布が欠かせません。
器の成り立ちを比べる模式断面で、二湖の幅・深さの実測比ではありません。上段の湖形成には周辺の隆起や排水の変化が関わり、下段も一つの対称的な溝ではありません。
湖底の泥に残った、水のなかった時代
現在の巨大な水面が、いつもそこにあったわけではありません。湖底から採取された堆積物には、過去に水が大きく減り、底が地表へ露出した時期の証拠が残っています。
2023年の魚類化石の研究でも、最終氷期の乾燥した環境と、その後に湿地や浅い水域が戻ってくる過程が扱われました。さらに堆積物や花粉を調べた研究では、まず湿地が成立し、その後に広く深い水域ができるという段階的な回復が検討されています。
ここでいう乾燥は、数か月の少雨で湖が消えたという話ではありません。長い気候変動の中で水の収支が変わった出来事です。広いが比較的浅い器は、深い盆地とは違う応答をしてきました。
川からだけでなく、湖面の上へ直接降る大量の雨
湖の水は、周囲の陸地に降った雨が川を通って集まるもの、と考えがちです。ビクトリア湖でも河川は大切ですが、巨大な湖面へ直接降る雨が、水の供給で大きな割合を占めます。
そのため、湖の周辺で雨が降っているかだけでなく、湖そのものの上にどれだけ降るかが重要になります。同時に、水面からは蒸発によって水が失われる。広い水面は、雨を受け取る面であると同時に、空気へ水を返す面でもあるのです。
雨量が減り、蒸発や流出が流入を上回れば、水位は下がります。逆の状態が続けば上昇するでしょう。湖が大きいから短期間の天候に影響されない、というわけではありません。
湖が自分の上に雨雲を育てる仕組み
広い湖面は、降ってきた雨を受け止めるだけの場所でもありません。水と陸では温まり方や冷え方が違うため、一日の中で湖岸の風の向きが変わり、雨雲のできやすい場所も移ります。
2016年にNASAが紹介した衛星観測を用いる研究では、昼に陸上で発達しやすい雷雨が、夜には湖上へ集中する特徴が示されました。湖面から供給される水蒸気や空気の上昇も加わり、湖が周囲の大気へ働きかけています。
湖の水量と天気は、一方通行の関係ではないわけです。大きな水面が局地的な気象を変え、その上に降った雨が再び湖へ入る。面積の大きさには、深さとは別の意味があります。
浅い湖の水位と、ナイル川へ流れる出口
ビクトリア湖の水は、北側のジンジャ付近からナイル川水系へ流れ出ます。この出口にはダムがあり、現在の水位を考える際には、自然の雨や蒸発だけでなく、放流も関係します。
NASAは2000年代半ばの低水位と、2020〜2021年の高水位を、それぞれ衛星観測などで紹介しています。同じ湖が、異なる時期には逆向きに変化してきた例です。一つの年の水際を、湖本来の永久的な境界と考えることはできません。
ビクトリア湖の広く浅い形には、周辺の隆起が変えた排水の歴史があり、現在の水面には雨・蒸発・流出の釣り合いがあります。地図で大きく見える湖ほど深い、という直感から離れると、この湖の特徴がはっきりしてきます。
参考資料
- Scientific Drilling(2024):ICDP workshop on the Lake Victoria Drilling Project
- Nature(2023):A continuous fish fossil record reveals key insights into adaptive radiation
- Journal of Great Lakes Research:From desiccation to wetlands and outflow
- NASA:Lake Victoria’s Falling Waters
- NASA:Mapping Storm Patterns Over Lake Victoria
- NASA:Lake Victoria’s Rising Waters