チャド湖は、大きく縮んだ湖として知られています。かつての広い青い水面と、後の小さな水面を並べた画像を見たことがあるかもしれません。しかし、その二枚だけで「毎年、同じ速さで消え続けている湖」と考えると、実際の変化を取り違えます。
チャド湖は非常に浅く、低い地形のわずかな段差で水域が分かれます。雨の場所と量、川から届く水、蒸発、湿地の植生が重なり、季節にも年ごとにも姿が変わる湖です。
水位の小さな差が、水際を大きく動かす湖底
深い谷に水がたまる湖では、水位が少し下がっても岸の位置があまり変わらない場所があります。チャド湖では、広い範囲で湖底が浅く平らなため、水位の変化が大きな面積の変化として現れます。
浅い皿の水を少し減らすと、水際が大きく後退するのと同じ関係です。ただし、実際の湖底には砂丘や島、浅い高まりがあり、すべてが一様な平面ではありません。
このため、湖の面積が半分になったとしても、水量まで同じ割合で減ったとは限りません。水面の広さ、水位、貯水量はそれぞれ別の量であり、地形を介して結び付いているのです。
主な水源は、湖の上に降る雨だけではない
チャド湖はサハラ砂漠の南縁に近い、半乾燥地域にあります。周辺だけの雨で大きな水面を維持するのは難しく、南側のより雨の多い流域から川が運ぶ水が重要です。
その中心がシャリ川・ロゴン川水系です。湖から離れた土地に降った雨が集まり、時間をかけて南側から湖へ入ります。北西側にはコマドゥグ・ヨベ川からの供給もありますが、各水系の役割は同じ大きさではありません。
湖岸で乾いた天気が続いていても、遠い上流の雨が後から届き、水位を上げる場合があります。湖に降る雨と、流域に降る雨の時期がずれれば、湖岸の季節感と水面の増減も一致しないのです。
南の水が北へ届くかを分ける、浅い敷居
チャド湖の南北の水域を隔てるのは、グレート・バリアと呼ばれる浅い高まりです。人工の堤防ではありません。砂や植生を伴う地形で、水位が高ければ水が越え、低くなれば南北のつながりが弱まります。
主要な流入河川は南側に注ぐため、南に水が残っていても、北へ十分な量が届くとは限りません。湖全体を一つの浴槽として扱うと、この違いを説明しにくくなります。
NASAが紹介する1970年代の衛星画像では、広い一続きの水面から、分かれた水域と湿地へ変わる様子が確認できます。北側の水面が特に大きく変動するのは、単に北ほど暑いという説明ではなく、水の届き方に段差があるためです。
南北方向の関係を示す模式断面です。実際の地形は島・砂丘・植生が入り組み、湖底の高さや水位差は図の比率と異なります。下段は北側に全く水が存在しないと断定する図ではありません。
青い水面が見えなくても、水がないとは限らない
浅くなった場所には植物が増え、開けた水面と湿地が入り混じります。上から見て緑色なら陸、青色なら湖と分けたくなりますが、植物の下に水がある場所もあります。
2020年の複数衛星を使った研究では、植物に覆われていない開水面と、植生のある冠水域を含めた面積の違いが、大きな論点になりました。「湖の面積」という同じ言葉でも、何を数えるかで結果が変わるのです。
これは観測が信用できないという意味ではありません。開水面の変化を調べる測定と、水に覆われた生息環境全体を調べる測定では、目的が異なります。違う定義の数字をそのまま前後比較すれば、実際以上に縮んだように見える場合があるでしょう。
1970〜80年代の大縮小と、その後の変動
チャド湖が過去に大きく縮小したこと自体は、観測で裏付けられています。特にサヘルの深刻な干ばつが続いた1970〜80年代には、流入の減少と湖の縮小が重なりました。
一方、2020年の研究が主に扱った2000年代以降の期間では、南側の水域は比較的安定し、北側は異なる変動を示しました。面積と貯水量でも傾向は完全には一致していません。過去の大きな縮小率を、その後すべての年の傾向として延長できない理由です。
昔より小さい状態のまま、年ごとには増減を繰り返す。両方が同時に成り立つため、ある期間の安定や回復が、1960年代の広さへの復帰を意味するわけでもありません。
地上の輪郭の外まで続く、水の出入り
湖水は蒸発するだけでなく、周囲の地下水系とも関係します。水が地下へしみ込めば、地表の水面からは見えなくなりますが、地域の水の蓄えから即座に消えたわけではありません。
ただし、浅い地下水と、古い時代に蓄えられた深い帯水層は同じものではありません。また、地域全体の重力変化から推定する水の蓄積と、湖面の水量も区別が必要です。いずれも「水が増えた」という表現だけでは、どこの水かが抜けてしまいます。
チャド湖の大きさが変わるのは、浅い地形が川の流入と蒸発の釣り合いを、水際の大きな移動として表すからです。その変化は一本の縮小線ではなく、南北のつながり、季節の増減、湿地と地下水を含む複雑な動きなのです。
参考資料
- USGS Earthshots:Chari River Delta, Lake Chad
- NASA:The Rise and Fall of Africa’s Great Lake
- Pham-Ducほか(2020):The Lake Chad hydrology under current climate change
- NASA NTRS:A predictive model for Lake Chad total surface water area using remotely sensed and modeled hydrological and meteorological parameters