地面にも空が広がり、人が雲の中に立っているように見える。ボリビアのウユニ塩湖は、そんな写真で知られています。ただ、白い塩がそのまま鏡になっているわけではありません。
空を映すのは、塩の平原を覆った浅い水の表面です。極めて平坦な塩原へ水が薄く行き渡り、風が弱く滑らかな水面が保たれることで、巨大な反射面が生まれます。
白い塩の大地を覆う、浅い水の層
ウユニは「塩湖」と呼ばれますが、一年中、深い水をたたえる湖ではありません。乾いた時期には、塩の硬い層が広く露出する塩原です。雨季に水がたまると、その上に別の表面が現れるのです。
NASAの2022年の解説では、塩の地表が広がる面積はおよそ1万平方キロメートルとされています。もっとも、雨季のたびに全域が同じ深さまで覆われるわけではありません。水の範囲や残る時間は、その年の雨や場所によって変わります。
水が薄く広がっても下には塩原があるため、浅い場所では人や周囲の山が水面のすぐ上に見えます。広い湖を岸から眺める景色とは異なり、反射面の中へ入ったような印象になるのでしょう。
塩の白さと、鏡のような反射の違い
乾いた塩が白く見えるのは、入ってきた光が細かな結晶や凹凸によって多くの方向へ散らされるためです。明るく光ることと、空の形を映すことは同じではありません。白い紙が明るく見えても、鏡の代わりにはならないのと似ています。
滑らかな水面では、光が一定の角度の関係を保って反射します。雲の各部分から来た光が、対応する方向へ反射して目に届くので、雲の像が見えるのです。空を映すために、水がすべての光を反射する必要はありません。
したがって、鏡のような景色を生む主役は「塩が特別に光ること」ではなく、「滑らかな水面が広く続くこと」です。塩原の役割は、その水面が広がれる平坦な土台を用意することにあります。
光の向きの違いを説明する模式図です。水の厚さと塩の凹凸は大きく描いています。上段では散乱の一部を単純化し、下段では水中へ透過する光を省略しています。反射する光の量や実測の水深を示すものではありません。
古い湖の底に残った、何層もの塩
ウユニのあるアルティプラノでは、過去の湿潤な時期に大きな湖が広がっていました。周囲から水が流れ込む一方、海へ塩類を運び出す出口がない盆地では、水が蒸発するにつれて溶けた成分が濃くなります。やがて塩が結晶として析出し、湖底へ積もるのです。
現在の塩原は、一度だけ湖が干上がり、そのまま残った面ではありません。地下には湖の堆積物と塩の層が重なっており、水が多い時期と少ない時期の変化が記録されています。白い表面の下には、今とは違う湖の環境が埋まっています。
塩原から突き出す岩の島や、縁にあるトゥヌパ火山は、周囲の白い面と異なる地質です。島があることも、ウユニ全体が一様な厚さの塩の板ではない証拠でしょう。遠くからは単純に見える景観にも、塩に覆われた盆地と岩の高まりという違いがあります。
雨季の冠水が保つ、際立って平らな地表
高原では地面が変形することもあるのに、なぜウユニの塩の面は平らなままなのでしょうか。ここでは、繰り返す冠水と塩の移動が重要です。水が塩を溶かして運び、乾くと再び析出することで、平坦な面が保たれてきました。
2007年の研究は、この塩原を衛星観測や地上測量によって調べ、非常に平らでありながら、周縁の浅いくぼみや緩やかな起伏もあることを示しています。「平ら」は「どこにも高低差がない」と同じではありません。
それでも、普通の山地や起伏の大きな土地と比べれば、水が一部の深いくぼみだけへ集まらず、広い面を覆いやすい条件です。鏡の景色は、古い湖が残した地形だけでなく、今も繰り返される水と塩の働きに支えられているのです。
水があっても、風で崩れる空の像
水面へ波が立つと、表面の向きが細かく変わります。すると同じ雲から来た光も、場所ごとに違う向きへ反射し、像が伸びたり切れたりします。水が十分にある日でも、くっきりした鏡面になるとは限りません。
水量にも年ごとの差があります。NASAは、2022年初めには周辺の多い降水によって、水に覆われる範囲が例年より広く、長く残ったと紹介しました。これはその年の観察であり、毎年同じ月に同じ景色になるという予定表ではありません。
薄い水、弱い風、空の明るさ、見る角度。そうした条件の組み合わせによって、白い大地は雲を映す面へ変わります。反対に、乾いて露出した塩の模様にも、鏡面とは別の地形の表情があるのです。
写真の名所であり、地表を測る研究の場所
広くて平坦な面は、測量にも役立ちます。地上で精密に測った高さと人工衛星の観測を比べれば、衛星がどれほど正確に地表をとらえているかを調べられるからです。ウユニでは、GPS測量と衛星のレーザー高度計などを組み合わせた研究が行われてきました。
水に覆われた面と乾いた面を比べる研究では、光の波長によって水に吸収される量が違うことも利用されています。写真では一続きの青に見える場所にも、水深の違いを推定する手がかりが含まれているのです。
空が映るという身近な現象の背景に、盆地の地質、塩の溶解と析出、光の反射、衛星による測量がつながっています。ウユニの鏡面は、塩湖だから必ず生まれるものではありません。特別に平坦な大地と、その時々の水面がそろってこそ成立する景色なのです。
参考資料
- NASA Ciencia:Un baño de sal en Bolivia(2022年の冠水範囲)
- OpenStax:College Physics 2e, 25.2 The Law of Reflection
- NASA Earth Observatory:Salar de Uyuni, Bolivia(塩原と湖底堆積物)
- Bills・Borsa・Comstock(2007):MISR-based passive optical bathymetry from orbit with few-cm level of accuracy on the Salar de Uyuni, Bolivia
- NASA NTRS:Topography of the Flattest Surface on Earth(ICESat・GPS・MISRによる測量研究)
- NASA Earth Observatory:Tunupa Volcano, Bolivia