乾季には草原だった土地が、雨季には水面の点在する湿地へ変わる。コロンビアとベネズエラに広がるリャノでは、季節によって陸と水の境目が大きく動きます。オリノコ川流域にあるこの平原の水浸しは、いつも一度の異常な豪雨だけで起きるものではありません。
雨の多い季節に供給される水と、水をすぐには排出できない低い地形。その組み合わせが、広い範囲の季節的な浸水を生みます。ただし、リャノ全体が同じ深さで沈むわけではありません。わずかな高低差が、水のある期間と、そこで営める暮らしを分けています。
長い雨季に増える、平原への水の供給
コロンビアの気象機関IDEAMは、オリノコ地域の多くで、一年の中に主な雨季と乾季を一つずつ持つ降水の型を示しています。月ごとの雨量や季節の始まりには地域差があるものの、通年で同じ量の雨が降るわけではありません。
平原を濡らす水には、その場の雨だけでなく、山麓や上流に降って河川を通じて届く水も含まれます。上流で集まった水が、低地の川へ次々に入る。足元で雨が弱まったからといって、すぐに川の水位まで下がるとは限らないのです。
速く下る水を、横に広げる低い土地
山地では短い距離で大きく高度を失う川も、平原では勾配が小さくなります。河道で運び切れない水は氾濫原へ広がり、浅い窪地にはその場の雨もたまります。水の供給源は、川からの氾濫だけではありません。低地の排水の遅さが、頭上に降る雨の行き先にも影響するのです。
広がった水が低地に一時的に蓄えられるため、浸水は雨の瞬間だけの現象ではありません。川へ戻る流れ、地下への浸透、蒸発や植物を通じた水の放出によって、時間をかけて減っていきます。平らな景色ほど、水位の小さな変化が広い面積の違いになり得るのです。
バンコ・バホ・エステロを分ける小さな起伏
コロンビアのカサナレでフンボルト研究所などが調べた放牧地では、土地の使い方が微地形と結び付いていました。雨季にも比較的乾いた場所が残る高まりをバンコ、その隣で浅く水につかる低い場所をバホと呼びます。
さらに低く、水の深い窪地がエステロです。乾季にも水が残る場所は、家畜などの水源になります。同じ草原の中に、水を避ける場所と水を得る場所がある。地図で一色に塗られた低地にも、人や生物にとって重要な高低差があるのです。
コロンビアの氾濫原で使われる区分を単純化しています。高低差を誇張しており、実測の水深・浸水期間は示していません。バンコが必ず非浸水、エステロが必ず通年水域という意味ではなく、リャノス全域がこの断面になるわけでもありません。
リャノのすべてが毎年水没するわけではない
リャノは広大な地域名であり、「浸水する草原」と完全に同義ではありません。コロンビア側には、比較的排水のよいアルティリャヌラと呼ばれる高位の平原もあります。
ビチャダのトモグランデ野外調査地では、排水のよいサバンナと、川沿いの森林が組み合わさっています。森林の中にも季節的に浸水する部分とそうでない部分があるため、「草原なら乾燥、森なら湿地」とも分けられません。地形、河川との位置関係、水の供給が、植生の違いに重なっています。
陸と水の交代に合わせた生物と放牧
水が広がる季節には、水生生物も川の外へ進めます。反対に、水が引いたあとに残るのは、川筋や深い窪地の水域です。季節を通じて同じ場所が同じように使えるわけではありません。フンボルト研究所は、この水域の拡大と縮小を、氾濫するサバンナの生態を形づくる「洪水パルス」として説明しています。
伝統的な放牧でも、同じ場所に一年中家畜を置くのではなく、高まり、浅い低地、残った水場を季節に応じて使い分けてきました。雨季の水をすべて無用なものと見なすと、乾季を支える水の蓄えや草の利用まで見えなくなります。
季節的な浸水と、被害を伴う洪水の違い
周期的な浸水が自然の仕組みの一部でも、どんな洪水も安全ということではありません。通常より高い水位、長い浸水、家屋や道路のある場所への流入は、生活に大きな被害をもたらします。
一方で、土地を一律に排水したり、道路の盛り土で水の道を遮ったりすれば、従来の流れ方も変わります。リャノの季節変化は、「雨で草原が湖になった」という一枚の写真では捉え切れません。低地のどこに水が入り、どこから抜け、乾季にどこへ残るかという連続した過程なのです。