白い塩の大地だったエア湖が、広大な水面へ変わることがあります。湖の上に大雨が降ったとは限りません。遠くのクイーンズランド州などに降った雨が、低い土地をゆっくり進み、何週間も、ときには何か月もかけて届くためです。
カティ・サンダ=エア湖は、海へ出る川を持たない内陸の湖。流れ込む水が増えれば広がり、流入が弱まって蒸発が上回れば縮みます。その姿を決めるのは湖畔の天気だけでなく、大陸内部に広がる流域全体の雨と、水の長い道のりなのです。
海面より低くても、海水が入らない理由
エア湖の低い部分は海面より約15メートル下ですが、海へつながる低い通路がないため、海水は入ってきません。水の行き先を決めるのは標高の数字だけではなく、周囲の地形とのつながりでもあるのです。
海へ流れ出さず、内陸の低地へ水が集まる仕組みを内陸流域と呼びます。エア湖流域は約120万平方キロメートルという広さですが、その全域の雨が必ず湖へ届くわけではありません。土に浸み込み、途中の湿地に広がり、空へ戻る水も多いのです。
湖は流域の出口であると同時に、水が海へ向かう旅の終点でもあります。ただし水の循環まで終わるのではなく、その先は主として蒸発によって大気へ戻る経路に変わります。
遠い雨が、時間差で湖へ届くまで
代表的な経路の一つが、ディアマンティナ川からゴイダー・ラグーンを経て、ウォーバートン川を下る道です。クーパー・クリークの水も、大きな増水時には東から湖へ到達します。川の名前が変わっても、水のつながりが途切れるとは限りません。
2019年には、1月末から2月初めに流域北部へ降った大雨に由来する水が南下し、3月15日に湖への流入が確認されました。一方、同じ時期に大雨となったタウンズビル周辺の水は基本的に海へ向かう別の流域です。「クイーンズランドの洪水」と一括りにしても、すべてがエア湖を満たす水ではなかったのです。
水の経路を示す概念図です。実際の河川配置、所要時間、水量の割合を表していません。地下水からの流入などは省略しています。湖へ届くかどうかは降雨の場所・量・前の湿り具合などで変わります。
枝分かれする川が、途中で水を使う仕組み
流域には、川が幾筋にも分かれ、氾濫原へ広がるチャネル・カントリーがあります。深い一本の川を水が一直線に進む風景とは違い、低平な地面へ薄く広がるため、移動に時間がかかります。
乾いた土地に最初の水が来ると、窪みを満たし、土へ浸透しながら進みます。途中に水が残るので、上流で増水しても下流まで同じ量が届くとは限りません。その後に追加の雨があれば、すでに湿った場所を通って、より遠くへ流れがつながることもあります。
湖へ届かなかった水も、単に消えた無駄な水ではありません。植物の再生や湿地の回復を支え、流れが途絶えた期間には深い水たまりが魚などの避難場所になります。最終的な湖面だけでは捉えきれない水の働きが、川の途中にあるのです。
面積の大きな湖が、浅い水でも広がるわけ
低平な湖底では、比較的小さな水深の変化でも水際が大きく動きます。衛星画像で広い範囲が青くなったからといって、その割合だけ湖の容量が満たされたことにはなりません。水面の面積と、蓄えられた水の体積は別の量です。
2019年7月の事例では、衛星画像から湖の約8割が水で覆われたとされましたが、気象局は容量としての満水率とは区別しています。浅い水は風でも片側へ寄るため、短期間の湖岸線の変化が、すべて流入量の増減を表すわけでもありません。
その後、流れ込む量より蒸発する量が多くなると、水面は後退します。「水が消える」という驚きの大きさには、浅く広がる湖の形も関係しているのです。
水だけが空へ戻り、塩が残る湖底
川は、岩石や土壌から溶け出した物質も運んできます。その水が蒸発しても、塩類は空へ戻りません。海への流出口がない場所で、塩類の運搬と濃縮が繰り返されることが、塩湖の形成につながるのです。
流入直後から湖全体が同じ塩分になるわけではありません。新しい水と、塩を含む湖底や残存水との混合が進み、乾燥に伴って濃度が高まるので、生きものにとっての条件も変わっていきます。
大きな増水は魚や水鳥に繁殖の機会をもたらしますが、その豊かさは永続する湖のものとは違います。遠い雨が短期間の湿地をつくり、やがて白い湖底へ戻る。エア湖の水と塩は、乾燥した大陸でも巨大な水の移動が起きることを示しています。
参考資料
- Bureau of Meteorology:Queensland floods: the water journey to Kati Thanda-Lake Eyre(2019年)
- Landscape South Australia:Surface water
- South Australia:Kati Thanda-Lake Eyre National Park and Elliot Price Conservation Park Management Plan
- Bureau of Meteorology:Rangelands — National Hydrological Projections Assessment Report