透き通った湯の池、泡を吹く灰色の泥、地面の割れ目から立ち上る蒸気。ニュージーランド北島のロトルアでは、温泉地帯を歩くうちに、地下の熱がさまざまな姿で現れます。なぜ、同じ火山地帯にこれほど異なる池や噴気孔があるのでしょうか。
その違いを生むのは、熱の強さだけではありません。地下水が液体のまま上がるのか、途中で蒸気とガスが分かれるのか、浅い地下水や岩石とどう反応するのか。同じ火山地帯でも、水の通り道によって温泉にも泥の池にもなることが、ロトルアの多彩な景観につながっています。
火山の熱を地上へ運ぶ、雨から始まる地下水の循環
ロトルアは、北島を貫くタウポ火山帯に位置します。地下に熱い岩石やマグマがあり、地面からしみ込んだ雨水が深く下ると、それらの熱を受け取る仕組みです。ただし、温泉へマグマが流れ込んでいるわけではありません。
水は岩石の割れ目や隙間を通って移動します。地下で熱せられた水が再び上昇し、地表へ達したものが温泉。その途中で冷たい地下水と混ざれば温度も成分も変わるため、隣り合う池が同じ色、同じ湯温になるとは限らないのです。
ただし、地面の下に熱い水を入れた大鍋があるわけではありません。岩石には水を通しやすい部分と通しにくい部分があり、地表まで水が届くには、熱源だけでなく水源と通り道もそろう必要があります。
ロトルアの温泉地帯は、ロトルア湖の南西側からワカレワレワ方面へ広がっています。湖そのものも過去の大きな噴火でできたカルデラにあり、街と湖と温泉は、同じ火山活動の歴史の上に成立した景観なのです。
澄んだ温泉と泥の池を分ける、熱水と蒸気の分かれ道
地下の熱水が比較的直接地表へ届く場所では、深部から運ばれた成分を含む温泉ができます。ロトルアにある、塩化物を多く含む澄んだ湯の池もその一例です。透明だからといって、成分が何も溶けていないわけではありません。湯が冷えるとシリカが析出し、池の縁などに沈殿物が育つ場合もあります。
これに対して、地下の水がすべて液体のまま上がるとは限りません。熱水は上昇中に圧力が下がると沸騰し、水蒸気とガスが液体から分離することがあります。このとき塩化物の多くは液体側に残るため、地表へ上がる蒸気と、もとの熱水では、運ぶ成分も異なるのです。
蒸気と一緒に上がる硫化水素などのガスは、温泉の性質を変える原因にもなります。硫化水素が浅い場所で水や酸素と関わる反応を起こすと硫酸が生じ、その酸性の水が岩石を変質させて粘土をつくるのです。
代表的な二つの経路を分けた模式図です。実測断面ではなく、深さや池の形は比例しません。実際には複数の水が混ざり、蒸気・ガスの経路も分岐します。矢印は岩石内の割れ目や隙間を通る流れを表し、図のような管や空洞がある意味ではありません。
灰色の泥は、溶けたマグマではありません。変質した岩石の細かな粒が、水と混ざったものです。そこへ蒸気やガスが入り込むと、泥の粘りに押さえられた泡が膨らみ、表面ではじけます。
したがって、澄んだ温泉に土が混ざれば、ロトルアの泥の池を説明できるというわけでもありません。地下での液体と蒸気の分離、ガスの化学反応、岩石の変質が重なった結果なのです。実際の温泉には異なる水が混ざるものもあり、二種類だけにきれいに分けられるものではありません。
間欠泉を生む、地下の圧力と狭い通路
熱い水が湧くことと、水柱が周期的に噴き上がることは別の現象です。多くの温泉が静かに湯をたたえているのは、温度が高いだけでは間欠泉にならないためなのです。
間欠泉には、熱を受ける水のたまり場と、流れを制限する地下の通路が関わります。深い場所の水には上の水の重さがかかるため、地表と同じ温度では沸騰しません。地下の水は、地表なら沸騰する温度を超えていても、液体として存在できます。
やがて沸騰や水の押し出しが始まり、上に載る水が減ると圧力が低下します。圧力が下がれば、さらに多くの熱水が急に蒸気へ変わるため、体積の大きな蒸気が次々と水を押し上げ、勢いのある噴出へつながるのです。
噴出のあとには水が補給され、再び熱を蓄える過程が続きます。ただし、通路の形、水の供給、ほかの温泉とのつながりは場所ごとに異なります。どの間欠泉も時計のように正確な間隔で噴くわけではありません。
温泉の減少が明らかにした、地中でつながる水の圧力
ロトルアのマオリの人々は、地熱を調理や入浴、暖房などに利用してきました。その後、街の発展とともに井戸による熱水の利用も拡大します。ところが20世紀後半には、ワカレワレワなどで温泉や間欠泉の活動が衰える問題が起きたのです。
地下の熱源が突然なくなったわけではありません。井戸から水をくみ上げることで地中の圧力や流れが変わり、別の場所で湧くはずの熱水が、地表まで十分に届かなくなることが問題だったのです。
1986年ごろから、ポフツ間欠泉から1.5キロメートル以内を対象に井戸の閉鎖が進められました。ベイ・オブ・プレンティ地方の行政資料によると、この対策などによって熱水の採取は推定で約60%減少。その後、地下の水の圧力や一部の地表活動に回復が見られています。
一つ一つの池が独立した容器なら、離れた井戸の利用を変えても影響はないはずでしょう。実際には、地下の水と圧力を通して結びついています。ロトルアの地熱利用の歴史は、温泉を「熱い場所」だけでなく「水が循環する系」として扱う必要性を示した事例です。
ロトルア湖の底にも続く、見えない地熱活動
地熱の出口は、陸上の池や噴気孔だけではありません。GNS Scienceが2024年に公表したロトルア湖の詳しい湖底地図では、地熱に関わる噴出地点や、ガスが堆積物を乱してできた多数のくぼみが示されました。湖面からは見えない場所にも、水とガスの出口があるのです。
調査で手がかりにしたのは、湖底の形だけではありません。熱水が岩石中の鉱物を変えると磁気の性質も変わるため、磁気や熱の流れの測定を組み合わせ、地熱活動の広がりを捉えています。
地表で目を引くのは、湯気や噴き上がる水柱でしょう。しかし、その下には雨水の浸透、深部での加熱、熱水と蒸気の分離、岩石との反応が続いています。ロトルアの池ごとの違いは、地下を巡ってきた水が、それぞれ異なる経路をたどった痕跡なのです。
参考資料
- Bay of Plenty Regional Council:Rotorua geothermal system
- Bay of Plenty Regional Council:Geothermal surface features
- Bay of Plenty Regional Council:Rotorua Geothermal Regional Plan(1999年、地熱系の成り立ちの説明)
- GNS Science/Royal Society:Benefits of Volcanoes
- USGS:Where do acid-sulfate hot springs come from, and why are they important?
- USGS:Yellowstone’s Active Hydrothermal System(間欠泉の一般的な仕組み)
- GNS Science:New maps reveal Lake Rotorua’s hidden depths(2024年)