パラオのロックアイランドでは、緑の森を載せた岩の島が、海面近くでくびれた姿を見せています。上側が張り出し、下側が細くなった輪郭は、海に浮かぶキノコのようにも見えます。
この形の鍵は、石灰岩の島のうち、海面付近が特に削られることです。波だけでなく、水による溶解や、岩の表面に暮らす生物の働きも関わります。森に覆われた丸い頂上と、水際のくびれは、一つの力が全体を同じ形に削った結果ではありません。
サンゴ礁の石灰岩が、森を載せた島になるまで
ロックアイランド南部ラグーンは、パラオのコロール州にある、石灰岩の島々と海からなる世界遺産です。大きな島バベルダオブに火山岩の地形が広がるのに対し、ここでは、海で形成された石灰岩が独特の景観をつくっています。
サンゴなどがつくった炭酸カルシウムの物質が岩になり、海面より上へ現れた後、雨水が割れ目やくぼみを広げました。その結果、岩の高まりと低地が分かれ、複雑な起伏が生まれたのです。
一つ一つの緑の小島が、それぞれ小さな火山の頂上だというわけではありません。石灰岩の塊が残った部分と、その周囲の低い場所を海が満たした景観です。
米国地質調査所の航空写真資料にも、エイルマルク島の石灰岩が溶解によって深くくぼみ、その一部が湖や海へ通じる地形になっている様子が記録されています。現在の海岸線は、古い陸上の起伏とも関係しています。
水際を横へえぐる「ノッチ」
島の側面で海面付近を帯状にえぐっているくぼみを、ノッチと呼びます。それが島の周囲へ続くと、上部の岩が張り出し、細い足の上に大きな塊が載ったような輪郭になるのです。
重要なのは、岩の全体が同じ速さで後退していないことです。海面近くでは、潮に応じて濡れたり空気中へ出たりする帯ができ、水や生物が働く条件が、上の岩壁とも深い水中とも違います。
現地を長く研究してきたPatrick Colinの2009年の著書では、ロックアイランドのノッチが岩の内側へ数メートル入り込む例が紹介されています。小さな島ほど、同じ深さのくぼみでも、島全体に対するくびれの割合が大きくなります。
ただし、すべての島が整ったキノコ形になるわけではありません。島の大きさ、岩の割れ目、波にさらされる向きなどが異なるため、細いくびれの目立つ岩も、大きな崖の足元に溝が続く場所もあります。
特定の島の実測図ではなく、くびれの働きを理解するための模式図です。島の左右の形・高さ・ノッチの深さは変形して描いています。下段の各作用は同じ岩肌で重なって起こり、上下の順序で進む工程ではありません。生物の穴や削られた量は実測値ではなく、海面の長期変化を予測する図でもありません。
大波だけでは説明できない、岩を削る生物
岩のくぼみを見ると、激しい波が長い年月をかけて打ち砕いた、と考えたくなります。しかしロックアイランドの多くは、外側の堡礁に守られたラグーンの中にあります。水際が削られる理由を、大波の衝撃だけに求めることはできません。
岩に穴をあけてすむ生物や、表面の藻類などを食べる際に岩も削る生物が、その一部を担います。このような生物による侵食が、バイオエロージョンです。
その働きは、穴をあける一種類だけではありません。岩の内部へ穴を広げる生物もいれば、表面をこすり取るように餌を食べ、薄い岩の層を少しずつ失わせる生物もいます。一度に大きな岩を動かさなくても、同じ高さの帯で作用が続けば、岩壁の輪郭を変える力になるのです。
パラオの現地研究でも、ノッチの内部には生物による侵食の痕跡が豊富に見られると報告されています。波は水を動かし、削られた物質を運び出す役割も持ちますが、岩を削る働きのすべてを代わりに担うわけではありません。
森から海へ向かう水と、石灰岩の溶解
石灰岩の変化には、物理的に削れる過程だけでなく、成分が水へ溶ける過程もあります。雨が土壌を通ると、根や微生物の呼吸などによって生じた二酸化炭素を取り込み、水の性質が変わります。
このような水は、石灰岩の割れ目や岩肌のくぼみを広げることがあります。上部に森があることは、岩が水から完全に守られているという意味ではありません。土の下でも、岩と水の反応は続きます。
2015年のパラオのサンゴ礁研究も、海面付近のノッチについて、陸からの淡水の流入などに伴う溶解の作用を挙げています。生物の活動、水の化学的な性質、波による物質の移動は、互いに切り離された働きではないのです。
頂上側で雨水が土壌や割れ目を通って岩を変えるのに対し、水際では、潮の高さに応じた生物の活動や水との接触が、横方向のくぼみを発達させます。上下で異なる作用が重なるため、森に覆われた膨らみと、海面近くの細い部分が同居するわけです。
くびれが深まると、上の岩が崩れることも
ノッチは、岩の内側へ際限なく伸び続けるのでしょうか。下側が失われると、上の張り出した岩を支える部分は小さくなります。岩の強さや割れ目の位置によっては、大きな塊が崩れ落ちます。
Colinの現地記録は、ノッチの上の岩塊が崩れた例を紹介しています。また、Living Oceans Foundationの2015年の現地調査では、くぼみや洞窟、アーチが発達したロックアイランドが観察されました。水際の形は、少しずつ削られる過程と、ときに大きく崩れる過程の両方で変わるのです。
また、崖の高い位置に横溝が見えるからといって、それを直ちに昔の海面の跡と決めることもできません。もともと削られやすい岩の層が、横向きのくぼみをつくる場合もあります。
過去の海面を調べる際には、溝が周囲で同じ高さへ続くか、当時のサンゴや付着生物の痕跡があるか、地盤が上下していないかなども確かめます。今のノッチの形や高さだけから、将来の海面変化を予測できるわけではありません。
くびれの奥に広がる、岩の隙間と海水湖
ロックアイランドでは、海と切り離されて見える島の内側にも、塩分を含む湖があります。島のくぼみが海水湖となり、岩の割れ目や小さな通路を通して、外の海と水をやり取りする場所です。
パラオのCoral Reef Research Foundationは、海とのつながりが大きい湖と、間接的なつながりしか持たない湖を区別しています。後者では、湖面の潮の変化が外海より小さくなり、満ち引きの時刻も遅れる場合があります。
外から見える島の輪郭が閉じていても、地下まで閉じた容器になっているとは限りません。水が溶けやすい岩の中へ入り込み、通り道を広げるという性質が、海岸のくびれだけでなく、島の内部の水環境にも関わっています。
パラオのキノコ形の島は、単に波に丸められた岩ではありません。海で生まれた石灰岩に、陸上の雨と森、水際の生物と海水が異なる仕方で作用してきた姿です。水面に近い細い帯へ目を向けると、穏やかに見える海辺でも、岩の形を変える働きが続いていることが分かります。
参考資料
- UNESCO世界遺産センター:Rock Islands Southern Lagoon、石灰岩の島々と堡礁に囲まれた環境
- USGS:Aerial Photographs of Geologic Features Outside the United States、Palau 3の石灰岩の溶解地形
- Patrick L. Colin(2009):Marine Environments of Palau、海面付近のノッチ・生物侵食・岩塊の崩落
- van Woesikほか(2015):Keep up or drown: adjustment of western Pacific coral reefs to sea-level rise in the 21st century、パラオの海岸のノッチと溶解
- Living Oceans Foundation(2015):The Bait Grounds of Ngeruktabel、現地調査で観察されたノッチ・洞窟・アーチ
- Coral Reef Research Foundation:Types of Marine Lakes、海とのつながりによる湖の違い