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地形の陰影図が逆さの山に見えるのはなぜか 光の向きと立体感の錯覚

公開日

山の陰影図を眺めていると、谷筋が尾根のように盛り上がって見えることがあります。ところが、図を上下逆にすると、今度はくぼんだ谷に見えてくる。同じ画像なのに、地形の立体感が入れ替わる現象です。

これは、地図の標高が突然反転したわけではありません。明るい側と暗い側から立体を推測する際、人の視覚が「光はおおむね上から来る」という前提を使うために起こる、起伏の反転錯視です。陰影図の理解には、土地の高さだけでなく、図の中で光をどちらから当てたかも関わっています。

明るい場所が高いとは限らない、陰影起伏図の仕組み

陰影起伏図は、地形を照明で照らしたように表現する地図です。高さの数値を並べた数値標高モデルから斜面の傾きと向きを求め、仮想的な光源に対してどれだけ明るく見えるかを計算します。

重要なのは、明るさが標高そのものではないことです。低い丘でも光を向いた斜面は明るくなり、高山でも光と反対を向く斜面は暗くなり得ます。白いほど高い、黒いほど低いという凡例で解釈することはできません。

机の上の紙を少し傾けると、照明から受ける光の量が変わります。紙を天井近くまで持ち上げるかどうかより、面をどちらへ向けるかが、陰影図の明暗には直接関わるということです。

また、計算された陰影図と、その日に撮影した航空写真は別物です。前者の光源は作図の条件として選べますが、後者には撮影時の太陽、雲、植生、地表の色なども写り込みます。写真の暗い部分を、すべて斜面の陰だとみなすわけにはいきません。

同じ明暗をつくり得る、盛り上がりとくぼみ

丸く盛り上がった丘を左から照らせば、左斜面が明るく、右斜面が暗くなります。では、同じように左側が明るい模様は、必ず丘なのでしょうか。

すり鉢状のくぼみを反対側から照らした場合にも、内側の斜面に、似た明暗の配置が生じ得ます。画像の明るさだけからは、地形と光源方向の組み合わせが一通りには決まらないのです。

現実の視覚では、両目からの見え方、物の重なり、表面の模様なども立体感を支えます。しかし、真上から見た白黒の陰影図では、そうした手掛かりが乏しく、光の方向についての推測が大きな役割を持ちます。

同じ丘でも、光の向きで変わる立体感
同じ丸い丘の高さモデルを、左上と右下から照らして計算した二枚の陰影図。中央が高い点は変わらないが、明るい側と暗い側が逆になり、くぼみに見えることがある。

実在の地形ではなく、同じ数式でつくった丘に反対方向から光を当てた計算例です。表面の向きに応じた拡散反射を計算し、色や植生、投影する影は加えていません。光源高度は45度で、標高や明るさの測定値を示すものではありません。

上の二つの図は、同じ高さの模型に、正反対の方向から光を当てた計算例です。どちらも丘ですが、一方を穴のように感じる人もいるでしょう。反対に、二つとも丘に見える場合もあり、錯視の出方は全員に共通するわけではありません。

北西からの光が、地図の定番になった理由

国土地理院の陰影起伏図では、北西から光を当てた場合を表現しています。北を上にした地図なら、画面の左上からの照明です。

この方向は、日本の地形を実際のある時刻に撮影した太陽の位置を再現するために選ばれたものではありません。立体の凹凸を直感的に捉えやすくする、地図表現上の照明なのです。

人の視覚には、図や写真の上側から光が来ると仮定して、明暗から形を推測する傾向があります。下側から照らされた模様でも上からの光として解釈すると、盛り上がりとくぼみを入れ替えて辻褄を合わせてしまうことがあるのです。

ただし、この傾向を、変わらない生得的な規則と断定することはできません。Adamsらが2004年に発表した実験では、場面との能動的な経験によって、光の方向についての前提が変化し、その影響が別の課題にも及びました。

目に入った明暗をそのまま受け取るだけではなく、経験を踏まえて「この明暗なら、こんな形だろう」と補っている。その働きが普段の立体感を助ける一方、陰影図では逆の形を感じさせる場合もあるのです。

「北西なら最善」とも言い切れない実験結果

長く使われてきた北西の照明にも、検討の余地があります。2016年にオンライン公開されたBilandとÇöltekinの研究では、27人の参加者に、照明方向の異なる128枚の陰影図を見せ、谷か尾根かを判断してもらいました。

この実験で、正答率と判断の確信度が最も高かったのは、慣例の北西315度ではなく、少し北へ寄せた北北西337.5度でした。八つの場面に十六方向の照明を組み合わせた比較であり、単に一枚の地図の好みを尋ねたものではありません。

2018年には、南アフリカの別の参加者集団による追試も報告され、北北西や北からの照明が北西より有利だという傾向がおおむね確かめられました。ただし、この結果から、世界中のあらゆる地形や表示方法に一つの最適角度がある、とまでは言えません。

尾根がどちらへ延びているか、周囲の地形がどれほど複雑かでも、陰影の見え方は変わります。光源方向は自然に決まる答えではなく、人が形を区別しやすいかという観点から、実験で評価できる設計条件なのです。

衛星画像を180度回すと、谷が谷に戻ること

陰影の反転は、人工的な地図だけに起きる現象ではありません。NASAの解説には、米国南西部のグランド・ステアケース・エスカランテ国定公園の衛星画像で、谷の網目が浮き上がって見える例が紹介されています。

北を上にした北半球の画像では、太陽が南側から照らし、画面の下側が光源側になる場合があります。普段の「上からの光」という前提と食い違うため、谷を山の背のように感じやすくなるのです。

画像を180度回すと、地形の位置関係は保ったまま、明るい側が画面の上方へ移ります。NASAは、同じ操作でブータンのヒマラヤの地形や、アラビア半島の砂丘の凹凸が把握しやすくなる例も示しました。

もちろん、回転によって測量値が正しくなるわけではありません。画像の上を北だと思い込んだまま扱えば方角の取り違えにつながり、文字や方位の表示も含めて、どの方向へ回したかを区別する必要があります。

陰影とは別に確かめられる、標高と等高線

陰影が強い場所ほど高い、あるいは危険な急斜面だという解釈も正確ではありません。光源の高さ、方角、地形の高さの強調によって、同じ土地の模様を大きく変えられるからです。

国土地理院が公表する陰影起伏図の仕様には、平地と山地で高さの強調度を変える処理もあります。小さな起伏を見やすくする工夫であり、画面上の印象から、そのまま斜面の角度を測れるという意味ではありません。

山と谷の判別を支える別の情報には、標高の数字や、同じ高さを結ぶ等高線があります。閉じた線の内側へ向かって標高が高くなるなら山側、低くなるならくぼみ側です。こちらは仮想の照明方向では変わりません。

陰影は、広がる尾根や谷のつながりを一目で伝え、標高や等高線は、その立体感を高さの数値で裏付けます。二つを重ねるのは、同じ事実を二重に飾るためではありません。陰影から感じた凹凸を、照明によって変わらない情報と照らし合わせられるのです。

参考資料

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