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標高0メートルはどこの海面なのか 国ごとに異なる高さの基準

公開日

海岸に立っても、目の前の水面がいつも標高0メートルとは限りません。潮が満ちれば水面は上がり、風や気圧でも変わります。それなのに、離れた町や山の高さを一つの数字で比べられるのは、何をゼロとしているからなのでしょうか。

標高の出発点は、波打ち際のその瞬間の水面ではなく、観測に基づいて定め、陸上へ引き継いだ高さの基準です。日本では東京湾の平均海面が基準ですが、世界各国が同じ港、同じ期間の海面から出発したわけではありません。海はつながっていても、高さのゼロは歴史と測量の仕組みを伴っているのです。

潮の満ち引きと切り離して定める、平均海面

海面の高さは、一日に何度か変わる潮汐だけで決まるものではありません。風による吹き寄せ、気圧、海流などの影響も受けるため、一回の観測だけで「ここが海の高さ」と決めることはできません。

そこで、一定の場所で長期間観測し、その平均を求めます。これが高さの基準を定める出発点となる平均海面です。

ただし、平均を取れば、世界のどの港でも完全に同じ面が現れるというわけではありません。海流や水温・塩分による密度の違いなどは、平均した海面にも地域差を残します。観測した期間や、陸側の観測点の上下動も区別しなければなりません。

標高の基準を、その日の海面に合わせて毎回動かしたらどうなるでしょうか。同じ建物の床や道路の高さが、潮の満ち引きだけで増減してしまいます。測量に必要なのは、その時々の水面を追う数値と、土地を比較するための共通の基準を分けることです。

標高24.3900メートルにある、日本水準原点

日本の標高の基準は、東京湾の平均海面です。その基準を陸上で使えるようにした出発点が、東京都千代田区永田町の日本水準原点に当たります。

「原点」という名前でも、その地点が標高ゼロなのではありません。定められた原点数値は24.3900メートルで、水晶板の目盛りの特定の点に、高さを与えています。

物差しのゼロが海面の基準にあり、陸上で触れられる目印が24.3900メートルの位置にある、と考えると分かりやすいでしょう。測量のたびに東京湾で長期間の海面観測をやり直す代わりに、値の分かった目印から高さを引き継げるのです。

ただし、陸上の目印も不動ではありません。1891年の創設時には24.5000メートルとされていましたが、関東地震や東北地方太平洋沖地震に伴う地殻変動を受け、原点数値は改定されてきました。

また、日本の離島には、その島の平均海面に基づく高さを用いるものもあります。「日本の高さは東京湾が基準」という原則と、離島を含むすべての地点で全く同じ方法を使うという話は、同一ではありません。

英国の港と、スイスの湖にある高さの出発点

英国の本土で使う代表的な高さの基準ODNは、コーンウォールのニューリンで、1915〜1921年に観測した平均海面に由来します。現在のニューリンの海面がその後変化しても、ODNの採用値が日々追いかけて動くわけではありません。

海のないスイスにも、海を起点とする高さがあります。ジュネーブのレマン湖にある岩、ピエール・デュ・ニトンの標識が、測量の出発点です。

ここで基準としたのは、湖の水面をゼロにする仕組みではありません。フランスのマルセイユからの水準測量などを踏まえ、標識の高さを373.6メートルと定め、内陸へ海の高さをつないだのです。

スイスでは、以前の基準値376.86メートルから373.6メートルへ改めた歴史もあります。差は3.26メートル。古い地図の数値が現在より高くても、その分だけ山全体が削られたと考える必要はありません。

同じ場所の標高が資料ごとに違うとき、測り間違いのほかに、出発点や計算体系が違う可能性もあります。国境をまたぐ道路や地図をつなぐには、両側の数字を同じ基準へ換算することが必要なのです。

平らな球では表せない、重力と「水平」の関係

海を基準にできる背景には、水と重力の関係があります。水が静止したときの表面は、重力のもとで釣り合う面であり、地球の中心から一律に同じ距離を取った球面とは限りません。

地球の内部や表面では、物質の分布が一様ではありません。自転も含めた重力の場に対応して、水平な基準面の形にも、なだらかな凹凸が生じます。

平均海面に近い、重力の基準となる面がジオイドです。海のない陸地の下にも延びるものとして扱い、山や盆地を越えて高さを比較するために使います。

ジオイドの凹凸は、地形そのものの凹凸ではありません。山の表面をなぞった面でも、毎日の波の形でもなく、地球の重力から定まる基準面なのです。

さらに、実際の平均海面には海流などの影響が残るため、ジオイドと完全に一致するとは限りません。港で観測した平均海面、重力から考える基準面、国家として採用した高さの基準は、密接に関わりながらも、区別して扱われます。

GPSで得る高さと、地図の標高の間にある補正

衛星から位置を求めるGNSSでは、計算に使いやすい滑らかな地球の模型、回転楕円体を基準にできます。南北方向に少し扁平な球のような面で、そこからの高さが楕円体高です。

この面とジオイドは一致しないため、楕円体から100メートル上という値が、そのまま地図の標高100メートルを意味するわけではありません。ジオイドが楕円体からどれだけ上または下にあるかを、同じ場所で組み合わせる必要があります。

標高と楕円体高をつなぐ、ジオイド高
山上の同じ地点からジオイドまでが標高H、回転楕円体までが楕円体高hで、二つの基準面の隔たりがジオイド高N。例では楕円体高130メートルからジオイド高30メートルを引いて標高約100メートルを得る。

高さの基準面を区別する模式図です。各面の曲がり、地形、間隔を誇張しており、描画寸法は例示した数値に比例しません。鉛直線と楕円体法線のわずかな方向差を省略しています。実務の換算は地域・高さの体系に対応したモデルで行い、この仮の30メートルを一律に使うことはできません。

たとえば楕円体高が130メートルで、ジオイドが楕円体より30メートル上なら、標高に相当する高さはおよそ100メートルです。引き算の30メートルは測定ミスではなく、二種類の基準面の隔たりなのです。

もちろん、実際の換算には、その地域や高さの体系に合うジオイド・モデルなどを使います。ジオイドが楕円体より下になる場所もあり、全国・全世界で同じ数字を引けば済む話ではありません。

スマートフォンに表示される「高度」も、機器やアプリによって、どの高さを表示するか、どの補正を使うかが異なり得ます。衛星から位置を求めたという事実だけでは、地図の標高と同じ基準の値かどうかまでは決まりません。

2025年の日本の改定で変わった、高さの伝え方

従来の日本の標高体系では、日本水準原点から水準測量で高さの差を次々とつなぎ、全国の基準点へ伝えていました。近くの点との高低差を精密に求める方法ですが、長距離を測る間に誤差が累積し、各地を測った時期の違いや地殻変動も影響します。

2025年4月1日、国土地理院は全国の基準点の標高成果を「測地成果2024」へ改定しました。新しい仕組みでは、電子基準点の衛星測位による楕円体高と、ジオイド・モデルによるジオイド高から求めた標高を基盤にしています。

これは東京湾という基準を捨て、すべての高さを宇宙からの距離に置き換えたという意味ではありません。基準につながる高さを、全国で整合的に求め直す方法が変わったのです。

新しい数値には、積み重なった誤差や地殻変動によるずれの解消が含まれます。そのため、地図の標高が改定前後で変わっても、公表日に山が一斉に上下したと考えることはできません。

標高0メートルは、どこかの浜辺に引かれた永久不変の線ではなく、観測から定め、測量でつなぎ、必要に応じて更新してきた比較の基準です。海の近くでも遠い山でも高さを共有できるのは、数字の背後にこの共通の仕組みがあるからなのです。

参考資料

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