本文へ移動
世界と暮らしの疑問を整理する知識ポータル
世界・国際理解

地図の北とコンパスの北はなぜずれるのか 真北・磁北・方眼北の違い

公開日

地図の上を北へ向けたつもりなのに、方位磁石の針が少し斜めを指している。針が壊れているとも、地図が間違っているとも限りません。「北」と呼んでいる方向の基準が違うためです。

地球の自転軸に基づく真北、地磁気に沿う磁北、平面の地図に引いた方眼の北。三つは同じ方向になることもありますが、いつでも一致するわけではありません。しかも磁北とのずれは、場所だけでなく年月によっても変化します。

地理上の北極へ向かう真北と、磁場に従う磁北

真北は、その地点から地理上の北極へ向かう方向です。地図の経線に沿って緯度が増える側、と考えることもできます。地球の自転に基づいて決まる方向で、近くへ磁石を置いても変わりません。

一方、方位磁石の針は地球の地図を参照しているわけではありません。針が置かれた場所の磁場によって向きが決まり、水平に回る針は、その磁場の水平方向の成分に沿おうとします。その北側の向きが磁北です。

地球の磁場は、地球の内部に一本の棒磁石を入れた模型で大まかに表せます。ただし、実際にはその模型より複雑で、地理上の北極と磁場に関係する極も一致しません。

ここで意外なのは、方位磁石が「北磁極という一地点へ、常に最短距離で向く装置」ではないことです。針を動かすのは、その場所の磁場。北磁極の位置を地図に一点描いても、世界各地の針の向きがすべてその点へまっすぐ集まるわけではないのです。

札幌と那覇でも異なる、真北からのずれ

真北と磁北のなす角度を「偏角」と呼びます。東へずれる場合を東偏、西へずれる場合を西偏といい、日本列島では西偏の地域が大部分を占めます。

国土地理院の磁気図2020.0年値の説明では、札幌のずれは西へ約10度、那覇では約6度です。同じ日本国内だから同じ補正でよい、というものではありません。この数値は2020年1月1日を基準とする磁場の例で、すべての年に固定された値でもありません。

たった数度なら小さな差に思えるでしょう。しかし、仮に向きが8度違うまま平面上で1キロメートル進めば、本来の方向から横へ約139メートル離れます。これは1,000メートルに8度の正弦を掛けた幾何学的な計算で、特定の場所の移動結果を示したものではありません。

角度の違いは、距離が長くなるほど位置の違いとして表れます。偏角は、方位磁石の精度が悪いことを表す数字ではなく、二つの「北」の間にある実際の差なのです。

平行な方眼と、北極で集まる経線

真北と磁北に加え、地図には「方眼北」もあります。これは平面直角座標などの方眼を地図へ描いたとき、縦の方眼線に沿う北方向です。

地球上では経線は北極へ向かって集まります。一方、平らな紙の上で位置を扱いやすくする方眼は、互いに平行です。曲面を平面へ写す際、すべての場所で経線の向きと方眼の向きを一致させられるとは限りません。

たとえば英国の地図で使う横メルカトル図法の方眼では、基準となる中央の経線に沿って真北と方眼北が一致します。その東西へ離れると、両者の向きに差が生まれるのです。

真北・磁北・方眼北は、出発点が同じでも別の方向
同じ地点から三本の矢印が伸びる。真北は中央、磁北は左、方眼北は右に描いた模式例。真北と磁北の間が偏角で、真北と方眼北の差は別の角度として示す。

三つの方向の関係を区別する模式図です。角度は見やすく誇張しており、特定の場所や時点の実測値ではありません。磁北・方眼北が真北のどちら側になるか、何度ずれるかは場所などによって異なり、この図を実際の方向補正には使えません。

したがって「地図の上」と言うだけでは、どの北なのかは決まりません。真北を上にした地図もあれば、方眼北を上にした地図もあり、画面を回転できる地図なら上端の方角自体を変えられます。

真北と方眼北の角度は、地図の投影と場所から生じるものです。磁北との違いとは原因が別なので、磁石をどれほど精密にしても、この投影上の差までなくすことはできません。

三つの北が重なった、2022年の英国

三つの北は定義が違っていても、実際の向きが偶然そろうことがあります。英国地質調査所BGSは、2022年11月、イングランド南部ドーセットのラングトン・マトラヴァーズで三者が一致したことを報告しています。

その場所を通る英国の方眼の中央経線では、もともと真北と方眼北が同じ向きです。そこへ、時間とともに変わる磁北の向きが重なりました。

地理上の北極や磁極が、この村へ移ってきたわけではありません。同じ場所で比べた三本の方向線がそろった、という現象です。

一致する場所は、磁場の変化に応じて移っていきます。BGSが2025年に公表した説明では、当初の予測よりその進み方が少し遅くなったことも示されました。磁場を観測し直してモデルを改善すると、「いつ、どこで一致するか」の計算も更新されるのです。

磁場の予報に、観測年と有効期間がある理由

地球の主な磁場を生む外核では、液体の金属が流れています。その動きに伴って磁場が変わるため、過去の偏角を永久に使い続けることはできません。

地上の観測所や各地の測定、人工衛星のデータを組み合わせ、磁場の分布と変化をモデル化します。世界磁気モデルWMMもその一つで、NOAAとBGSが共同で作成しています。

2024年12月17日に公表されたWMM2025は、2029年末までを有効期間とするモデルです。これは2030年に地球の磁場が突然変わるという予告ではありません。時間がたつほど、予測と実際の変化の差が積み重なるため、定期的な更新が必要なのです。

ただし、広域の磁場モデルで、すぐ横にある鉄製の構造物や磁石の影響まで説明できるわけではありません。岩石の磁性や人工物による局所的なずれもあり、実際の針と広域モデルの値が完全には一致しない場合があります。

磁極の近くで、方位磁石が頼りにくくなる仕組み

北磁極に近づくほど、磁石は北を強く示すのでしょうか。必ずしもそうではありません。磁極では磁場の方向がほぼ鉛直になり、水平に針を向ける成分が弱くなるためです。

磁場全体が消えるわけではなく、針を水平に回すための手掛かりが乏しくなります。水平に回る方位磁石にとって、地面へ深く傾いた磁場は、東西南北を決めにくい条件なのです。

この「下向きへの傾き」は伏角と呼ばれ、真北から東西へのずれである偏角とは別の角度です。偏角だけを見ていると、磁場が三次元の方向を持つことを見落としてしまいます。

地図と方位磁石の北が違うのは、どちらか一方が偽物だからではありません。地球の自転、地球の磁場、曲面を平面にする計算という、異なる仕組みを使って方向を定めているからです。三つの北を区別すると、地図の余白に小さく描かれた方位の図にも、地球の形と内部の動きが関わっていることが分かります。

参考資料

関連する疑問

同じ分類の近い疑問へ進む