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地図を拡大すると道路の形が変わるのはなぜか 総描と情報の省略

公開日

スマートフォンの地図を拡大すると、一本だった道路が上下線に分かれ、滑らかだった川に細かな曲がりが現れます。さっきまで何もなかった場所に建物が並ぶこともあるでしょう。同じ場所なのに形が変わるのは、必ずしも測量の間違いではありません。

地図は、現実を一枚の絵にして、そのまま伸び縮みさせているとは限りません。表示する広さに合わせて、残すもの、省くもの、強調するものを変える編集が「総描」です。線を省くところまでは想像できるでしょう。ところが、分かりやすさを保つために、線の位置まで少し動かすことがあるのです。

細部を全部残すと、かえって消えてしまう道路

幅10メートルの道路を、幅も含めて正確に10万分の1にすると、紙の上では0.1ミリメートルです。100万分の1なら0.01ミリメートル。道路の両端を忠実に描こうとしても、二本の境界線を見分けることが難しくなります。

そこで、広い地域の地図では、道路を実際の幅の面としてではなく、一定の太さの線として表すことがあります。線の太さは、現地の道幅そのものではなく、高速道路や主要道路といった種類を示す記号にもなるのです。

その代わり、別の問題が生まれます。線を見える太さに保てば、すぐ隣の川や鉄道に重なりかねません。何も省略せず、すべてを強調するほど、実際には別々のものが一つに見えてしまうでしょう。

縮小された地図に必要なのは、情報をできるだけ詰め込むこととは限りません。たとえば二つの町を結ぶ道を知りたい場合、細かな敷地境界よりも、道路が途切れずにつながっていることのほうが大切です。地図の目的によって、残すべき情報の優先順位が変わります。

曲がりを減らしても残したい、川と道の位置関係

総描では、小さな折れ曲がりを減らす単純化が行われます。ただし、点を一定間隔で削るだけでは十分ではありません。大きな蛇行や特徴的な岬まで失えば、別の場所のようになってしまいます。

下図では、架空の川と道路を同じ範囲で比べています。下側は細かな曲がりを省き、見分けやすく描き直したものです。川と道路の間隔は変わっても、川の左右にある道を橋が結ぶという関係は変わりません。

総描で変える形と、保つつながり
上下で同じ架空の川と道路を比較。上図は細かな蛇行と近接した道を描き、下図は曲がりを減らして川と道路の間隔を広げている。どちらも川の左右の道を橋がつなぐ関係は変わらない。

総描の効果を比べるため、同じ範囲を同じ大きさで示した模式図です。実在の地図や測量値ではなく、間隔の変更は説明用に誇張しています。線の太さは実際の川幅・道幅を表しません。総描の前後で変えてよい距離や形は、地図の目的・縮尺・仕様により異なります。

橋の上の道路が川の手前で途切れたり、川の東岸にあった道が西岸へ移ったりすれば、見やすくても正しい地図とはいえません。形を単純にする一方で、つながりや左右関係を保つ。この二つを両立させる必要があるのです。

コンピューターで処理する場合も、線の点を減らす問題と、道路網として必要な枝を残す問題は別です。USGSの総描研究でも、形の単純化だけでなく、ネットワークの間引きなどを、異なる操作として扱っています。一本の道の形がきれいでも、町へ通じる道を全部消してしまえば、地域全体の説明にはなりません。

わざと少しずらす「転位」と、測量の誤差の違い

川のすぐ横を鉄道が走り、その隣に道路がある場所を想像してください。小さな地図に三本を重ねず描くには、現実より間隔を広げる場合があります。このように表現上の理由で地物を移す操作が、転位です。

国土地理院も、地図の見やすさを考慮し、近接する道路や鉄道の間に余白を設けるため、真の位置から移して記載する場合があると説明しています。知らずに見れば位置の誤りに思えますが、測れなかったための誤差とは原因が違います。

転位によって、そこに川と線路と道が別々にあることは伝わりやすくなります。一方、その間隔を画面上で測れば、現実の距離とは違う値になりかねません。「何が並んでいるか」を伝えるための調整が、「何メートル離れているか」の再現とは両立しない場合があるのです。

道路の線が用水路と重なって見えたから、道が水路の真上にある。建物記号の端が敷地の境界だから、そこまでが建物の所有地。こうした判断ができないのは、地図記号が測量図面の線と同じ役割ではないためでもあります。

同じ大きさの建物でも、残るものと消えるもの

省略の基準を面積だけで決めると、地図の役に立ち方を損ねることがあります。建物が密集する街中の一棟と、周囲に何もない場所の一棟では、目印としての意味が違うからです。

英国の陸地測量部Ordnance Surveyは、都市の中では省く小さな建物でも、遠く離れた場所の唯一の建物なら残す例を挙げています。地図づくりでは、物の大きさだけでなく、周囲との関係も情報なのです。

多数の建物を一つの市街地としてまとめる、空港の滑走路や建物を一つの記号で代表させる、といった変更もあります。これは単なる削除ではありません。個々の形の代わりに、地域や施設がそこに存在することを伝える表現への切り替えです。

拡大した途端に空港の記号が消え、滑走路の形が現れても、空港が別のものになったわけではありません。同じ対象を「施設の所在」として示すか、「施設の内部構造」として示すかが変わったのです。

デジタル地図のズームは、画像の引き伸ばしだけではない

地図アプリには、拡大率に合わせて別の地図画像を読み込むものも、道路などの座標データから画面を描くものもあります。どちらでも、遠くから見たときと近づいたときに、使う情報や描き方を切り替えられます。

地理院地図のベースマップも、一つの縮尺の絵を無制限に拡大縮小したものではありません。国土地理院の説明では、広域を示すズームレベル5〜14は、レベル15をさらに縮小編集したものとされています。

座標から描くベクトル地図でも、画面の細かさに応じて線の点を減らすことがあります。たとえばMapboxのタイル生成サービスは、ズームごとに形を単純化する処理や、住宅地の道などを特定の拡大率から表示する設定を用意しています。線がくっきりしていることと、元の全座標が表示されていることは同じではありません。

また、地図画面のスクリーンショットを画像アプリで引き伸ばしても、省かれた道や建物は戻りません。地図アプリでのズームと、保存済みの画像の拡大との違いは、新しい情報を呼び出せるかどうかにあります。

拡大して現れる細部と、現地の新しさは別の問題

拡大すれば細かい情報が現れますが、その情報が最新とは限りません。昨日開通した道路の反映と、以前からある道路をどの縮尺で描くかは、別々の作業です。

小さな道が広域表示で消えていても、それだけでは廃道になったとは分かりません。逆に、拡大して精密な曲線が見えたとしても、それを現在の現地と照合したことにはならないでしょう。

地図の形が切り替わる場面には、情報を減らす代わりに全体のつながりを保ち、近づいたら細部を戻すという設計があります。道路の小さな曲がりを省くことと、道路がどの町を結ぶかを省くこと。その違いを扱う技術が、総描なのです。

参考資料

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