本文へ移動
世界と暮らしの疑問を整理する知識ポータル
世界・国際理解

人口密度の色分け地図は何を見落とすのか 地域の区切り方で変わる印象

公開日

人口密度の地図で、隣の市より薄い色の市があれば、人が少なく、広々と暮らせそうに見えます。けれども、実際の市街地は同じくらい混雑しているかもしれません。市の境界の内側に広い山林を含むかどうかで、平均の人口密度は大きく変わるからです。

色分け地図が示すのは、区切った地域ごとの平均です。人が実際に住む場所の細かな分布でも、歩いて感じる混雑そのものでもありません。さらに、誰も引っ越していなくても、地域の区切り方を変えるだけで、地図の濃淡は変わります。

山林まで一色に塗られる、人口密度という平均

人口密度は、人口を面積で割った値です。人口10万人、面積100平方キロメートルの架空の市なら、1平方キロメートル当たり1,000人になります。

ただし、どの1平方キロメートルにも1,000人ずつ住んでいるわけではありません。全員が面積10平方キロメートルの市街地に住み、残りが無人の山林なら、市街地だけの密度は1万人です。市全体の平均とは10倍もの差が生まれます。

色分け地図では、ふつう境界の内側を同じ色で塗ります。その色は「この地域をまとめるとこの値」という意味であり、山の斜面にも住宅地と同じ密度で人がいるという意味ではありません。

同じ市街地が、周辺の山林を含む自治体に属するか、市街地だけで独立した自治体になるか。その違いによって地図の色が変わるなら、濃淡の差の一部は、人の暮らし方ではなく行政上の境界によるものなのです。

誰も動かなくても変わる、二通りの地域分け

次の図は、面積4平方キロメートルに2,000人が住む架空の地域です。西半分に人口が集中し、東半分には誰も住んでいないとしましょう。

東西に二分すれば、西側の密度は1平方キロメートル当たり1,000人、東側は0人です。同じ土地を南北に二分すると、どちらにも1,000人が含まれ、密度はともに500人になります。

境界だけを変えると、人口密度の地図は変わる
同じ正方形の西半分に二千人が住む架空の地域を二通りに集計。東西で区切ると人口密度は千人と零人、南北で区切るとどちらも五百人になる。点で示す人口の分布はどちらの図も同じ。

全体の面積4平方キロメートル、総人口2,000人という仮想例です。点は100人をまとめた説明用の記号で、実際の住所や人数の観測記録ではありません。二枚とも人口密度0・500・1,000に同じ三段階の色を用い、集計境界だけを変えています。

この二枚で変わったのは、集計する境界だけです。人口も面積も、住む場所も変わっていません。それでも一方には濃い地域と薄い地域が現れ、もう一方には地域差がありません。両方とも計算は正しく、違うまとめ方をしているのです。

地理的な集計では、単位を大きくすることで生じる違いと、単位の大きさが同じでも区切る形を変えることで生じる違いがあります。このような問題は、可変単位地区問題、英語の略称でMAUPと呼ばれます。都道府県、市町村、町丁ごとの地図が違って見えるのは、細部が増えるためだけではありません。

ここから「統計はどんな結論にでもできる」と考える必要はありません。市の施設配置を考えるなら市の範囲が、住宅の集まり方を知りたいならもっと細かな範囲が、それぞれ意味を持ちます。同じ人口を、どの問いに合わせてまとめた数値なのかが違うのです。

合併後の密度を、二つの密度の単純平均にできない理由

地域をまとめるときは、平均の計算にも注意が要ります。架空のA町は人口1万人、面積1平方キロメートル。隣のB町は人口1万人、面積9平方キロメートルとしましょう。

A町の人口密度は1万人、B町は約1,111人です。しかし二つを合併した町の密度は、その中間の約5,556人ではありません。人口の合計2万人を、面積の合計10平方キロメートルで割った2,000人です。

面積の違う地域の密度を、地域一つにつき一票のように平均してはいけないのです。この例では、B町の広い土地もA町と同じ重みで扱ってしまうと、全体を実際より混み合っているように計算してしまいます。

合併した年に旧A町の色が薄くなっても、人が急に減ったとは限りません。別の面積を分母にした平均へ切り替わった可能性があります。人口の時系列を比べる際に境界をそろえる必要があるのは、こうした数字の変化と実際の人口移動を混同しないためです。

濃い色の面積と、そこに住む人数の不一致

色分け地図では、広い地域ほど大きく見えます。しかし、地図上で目立つ広さが、そのまま人口の多さになるわけではありません。

架空の二地域で比べましょう。面積1万平方キロメートル、密度10人の地域には10万人が住みます。一方、面積10平方キロメートル、密度2万人の都市なら人口は20万人。面積は千分の1でも、人数は二倍になるのです。

薄い色が国土の大半を占める地図を見て「大半の人が、まばらな場所に住んでいる」と結論づけることはできません。国土の大半が低密度であることと、人口の大半がそこに住むことは、別の条件だからです。

密度の分布を知る地図と、人の多さを円の大きさなどで示す地図では、目立つ場所が変わります。どちらかが間違いなのではなく、前者は人口と面積の比、後者は人口の総数を表しているのです。

同じ数字でも印象が変わる、色の境目

集計する地域が同じでも、色を切り替える値によって印象は変わります。密度999人と1,001人の地域が、1,000人を境に違う色になれば、小さな差が境界に沿ってくっきり現れるでしょう。

逆に、1,000人以上1万人未満を同じ色にまとめれば、1,100人と9,000人の違いは見えません。色には数字の幅が割り当てられているため、その幅より細かな差は一色に吸収されます。

数値の幅を均等にする方法と、それぞれの色に入る地域の数をほぼそろえる方法では、同じデータでも別の塗り分けになります。後者は、数値の差の大きさを均等に扱う分類ではありません。そのため、数値の近い地域が別の色になったり、大きく違う地域が同じ色になったりすることがあるのです。

二つの年の地図で同じ濃い赤を見つけても、赤の定義が違えば増減を比較できません。色はデータそのものではなく、数値を段階へ分けた結果です。人口密度の凡例に並ぶ境界値も、地図が伝えている内容の一部なのです。

メッシュで見える居住の偏りと、それでも残る限界

行政区画の広さに左右されにくくする方法が、土地を規則的な格子に分けるメッシュ統計です。Eurostatは2021年の人口調査に基づく情報を、1平方キロメートルの格子でも提供しています。これなら、隣接する自治体の面積が大きく違っていても、集計の区画まで大小ばらばらにはなりません。

細かな格子なら、同じ市に属する山林と住宅地を別々に示せます。ただし、一つの格子の中がさらに偏っている可能性は残りますし、格子をずらせば、境目の住宅をどちらに数えるかも変わります。細分化は平均の範囲を小さくする方法であり、平均そのものをなくすわけではありません。

さらに「人口」が何を数えたものかでも、街の姿は変わります。常住人口はふだん住む場所を基準にした人口です。会社や学校が多く、人が毎日集まる街でも、住む人は少ないということがあるでしょう。

日本の国勢調査には、通勤・通学による流出入を反映した昼間人口もあります。ただし、2020年調査の定義では、買い物客や観光客は含まれません。反対に、夜間に通勤・通学する人も算入されるため、「昼間人口」さえ、ある日の正午にそこにいた全員を数えた値ではないのです。

人口密度の地図が得意なのは、人と土地の関係を地域ごとに比較することです。街角の混雑、住宅の詰まり方、国民の多数が暮らす環境まで一枚で表すわけではありません。人の分布を知るには、色の濃さに加え、集計した範囲と人数の定義が必要になるのです。

参考資料

関連する疑問

同じ分類の近い疑問へ進む