北極も南極も、冬には太陽が昇らない時期があり、雪と氷に覆われています。それなら同じくらい寒くなりそうですが、南極大陸の内陸部は、北極海の上よりずっと厳しく冷え込みます。
大きな違いは、氷の下に海があるか大陸があるか、そして空気に接する氷の表面がどれほど高いかです。海面近くの海氷の上にある北極点に対し、南極点は厚い氷に覆われた高原の上。二つの極は、緯度だけを裏返した同じ環境ではないのです。
北極点の下は海、南極点の下は厚い氷と大陸
北極点は北極海の中にあり、周辺を覆う海氷の下には液体の海水が広がっています。海水が凍って浮いているため、氷の表面は基本的には海面に近い高さです。
南極点の足元にあるのは、南極大陸を覆う氷床です。陸上で雪が積み重なってできた非常に広い氷の塊で、海水が表面だけ凍った海氷とは、厚さもでき方も違います。
オーストラリア南極プログラムの解説では、南極点の標高は約2,830メートル、南極大陸の平均標高は約2,500メートルとされています。氷に覆われて平らに見える景色でも、実際には高い山の上に近い環境なのです。
構造の違いを示す模式断面図で、特定の測線の地形や氷厚の実測図ではありません。北極の海氷の割れ目は説明用の配置で、北極点の直近の状態を示しません。下段の標高はAustralian Antarctic Programの南極点約2,830メートルという説明に基づきます。地表・岩盤の形、熱の矢印の太さは定量比較ではありません。
ここで比べているのは、北極海上と南極の内陸高原です。北極圏にもグリーンランドのように高い氷床があり、南極にも海面に近い沿岸部があります。地域内のすべての場所で、南が北より寒いという意味ではありません。
海水が持つ熱と、海氷による断熱
水は、温度を変えるために多くの熱を必要とする上、海では混合や海流によって熱が運ばれます。氷の下の海水も、冬の極域の空気に比べれば相対的に暖かいため、空気の強い冷え込みを和らげる働きがあります。
ただし、海氷が海の熱をそのまま通すわけではありません。氷と、その上に載った雪は断熱材として働き、海から大気への熱の移動を抑えます。
米国の国立雪氷データセンターNSIDCは、海氷が熱や水蒸気の交換を制限する一方、割れ目などの開水面では、比較的暖かい海から寒い空気へ熱と水分が移ると説明しています。海氷は海の存在を消してしまう蓋ではなく、厚さや割れ目によって熱のやり取りを変える蓋なのです。
南極の内陸高原には、これと同じような海水が氷のすぐ下にありません。海から遠く離れ、厚い氷の表面で空気が冷やされるため、海洋による気温の緩和を受けにくくなります。
厚い氷がつくる、標高数千メートルの寒さ
山へ登ると気温が低くなるのは、南極でも重要です。厚い氷床は白い覆いであるだけでなく、地表を高い位置へ持ち上げています。
大気では一般に、高度が増すにつれて気圧が下がるため、上昇する空気は膨張して冷えます。このような大気の構造が、高地の低温に関わっています。南極点の寒さを考える際にも、高原であることは無視できません。
ただし、「100メートル上がるごとに何度下がる」という一つの値を、南極の地面付近へそのまま当てはめることはできません。強く冷えた雪面の近くでは、上空より地表付近の方が寒くなる気温の逆転も生じます。
つまり、大陸全体で内陸の高地が寒いことと、ある晩に地面から数十メートル上がったときの温度変化は、同じ比較ではありません。標高は大きな要因ですが、各地点の気温を高度だけから一律に計算できるわけではないのです。
夏の反射と、冬の放射冷却
雪と氷は、届いた太陽光の多くを反射します。暗い海面や土に比べ、太陽からのエネルギーを吸収しにくいため、白い表面が広く残ること自体が寒さを保つ助けになります。
これは、太陽の出ている時期の話です。極夜で太陽光が届かないときに、「白いから日光を反射して寒くなる」と説明することはできません。
冬の地表も赤外線としてエネルギーを放出するため、日射による補給がなく、雲や水蒸気などから戻る赤外線も少ない条件では、強く冷えます。南極内陸の低温には、こうした放射冷却と大気の乾燥も関わっています。
極地の夏には一日中太陽が見える時期がありますが、太陽は空の低い位置を回ります。同じ光が地面の広い範囲へ斜めに当たるため、日が沈まないことだけで熱帯のように暖まるわけではありません。
南極を取り巻く風と海流、それでも届く海の熱
南極の周囲には、陸で途切れずに一周できる南大洋が広がっています。その中を巡る風や海流が、低緯度から極域への熱の運ばれ方に影響するのです。北極海を大陸が囲む北半球と、同じ配置ではありません。
ただし、南極を巡る流れを、暖かい空気や海水を全く通さない壁と考えるのは誤りです。実際には、空気も熱も交換され、南極へ暖かく湿った空気が入り込むことがあります。
冷たい表面の海水の下に、相対的に暖かい海水がある場合もあり、それが大陸縁辺の氷の下へ届くと、氷を下から融かす要因になります。英国南極観測局BASも、西南極の氷が暖かい海水の影響を受けやすいことを説明しています。
したがって、内陸の空気が非常に寒いことと、海に接する氷が減らないことは同義ではありません。氷は上からだけでなく、海との接触面でも熱を受け取ります。
同じ南極の中でも大きい、沿岸と内陸の差
南極の寒さを一つの数字で表すと、地域差が見えにくくなります。オーストラリア南極プログラムの解説では、年平均気温は沿岸の約マイナス10度から、最も高い内陸の約マイナス60度まで大きく異なります。
これは、南極のどこでも一年中マイナス60度という意味ではありません。沿岸では夏に気温が0度を上回る場合があり、内陸でも季節や天候に応じて変動します。平均気温と、ある一日の最低気温も分けなければなりません。
北極海上と南極内陸を比べたときの温度差は、太陽から遠い順に場所を並べた結果ではありません。海に蓄えられた熱、地表の高さ、雪氷の反射、放射冷却、風と海流。これらが重なって、両極の違いをつくっています。
白い氷原という見た目は似ていても、一方は海に浮かぶ氷の上、もう一方は巨大な氷床がつくった高原です。その足元の違いが、空気の冷え方にまで及んでいるのです。
参考資料
- NASA:Which Pole Is Colder?、海上の北極点と高地の南極点の比較
- Australian Antarctic Program:Antarctic geography and geology、南極点と大陸の標高
- NSIDC:Why Sea Ice Matters、海氷の断熱と開水面での熱交換
- Australian Antarctic Program:Antarctic weather、地域別気温・放射冷却・乾燥した内陸
- British Antarctic Survey:Antarctica、内陸と沿岸の違い、西南極への海水の影響
- Hudson・Brandt:The Surface-Based Temperature Inversion on the Antarctic Plateau(NOAA、2005年研究発表要旨)