見渡す限り雪と氷なのに、南極は砂漠と呼ばれます。砂漠といえば砂丘や暑さを思い浮かべるなら、矛盾しているように感じるでしょう。
砂漠を特徴づけるのは、砂の多さではなく、雨や雪によって供給される水の少なさです。南極の内陸では、一年に加わる雪が少ない一方、過去に降った雪も融けにくい環境が続いてきました。「今たくさん降る場所」と「長い時間をかけて氷が残った場所」は、同じではないのです。
砂丘ではなく、降水量に着目する「極地砂漠」
砂漠には、砂丘の広がる場所だけでなく、岩や礫に覆われた場所もあります。暑いことも必須条件ではありません。寒い極域でも、降水がごく少なければ、極地砂漠と呼ばれます。
米国地質調査所USGSの解説では、極地砂漠を、年間降水量が250ミリメートル未満で、最も暖かい月の平均気温が10度未満の地域と説明しています。これは乾燥と寒さを組み合わせた見方です。
ただし、地球の乾燥地域を分類する方法は一つではありません。降水量だけでなく、蒸発散によって失われやすい水の量も考慮する区分があります。「250ミリメートル」という値を、あらゆる気候区分で使う唯一の境界だと考える必要はありません。
大切なのは、降水量には雨だけでなく雪も含むことです。南極で雨がほとんど降らないという事実だけでは、乾燥の説明は終わりません。雪として降った水も数えた上で、それでも供給が少ないかどうかを考えます。
雪の深さと、融かして得られる水の量
雪が10センチメートル積もったからといって、降水量が100ミリメートルだったとは限りません。新雪には多くの空気が含まれ、水にすると元の雪より薄い層になるからです。
気象や雪氷の研究で使う「水当量」は、雪や氷を融かした水の量に換算する方法です。同じ面積の上に水として広げたとき、どれだけの深さになるかで表します。
たとえば水当量50ミリメートルなら、1平方メートル当たり50リットルの水に当たります。これは面積と体積の換算で、新雪の厚さが必ず5センチメートルになるという意味ではありません。ふわふわの雪と、風で締まった雪では、同じ水の量でも厚さが違います。
オーストラリア南極プログラムの解説は、高い内陸高原で一年に蓄積する雪を、水当量で50ミリメートル未満としています。沿岸では一般に200ミリメートルを超え、場所によっては1,000ミリメートル以上。南極全体が同じ程度に乾いているわけではありません。
海から遠い内陸へ届きにくい、水蒸気
雪を降らせるには、その材料になる水蒸気が必要です。南極を囲む海は水分の供給源ですが、内陸の高原は海から遠く、標高も高いため、沿岸と同じ条件ではありません。
気温が低いほど、氷や水と平衡にある水蒸気の量は少なくなります。寒い空気が飽和に近くても、暖かい空気ほど多くの水蒸気を含んでいるわけではありません。
ここで「湿度が高い」と「水蒸気の絶対量が多い」を区別する必要があります。相対湿度は、その温度での飽和にどれだけ近いかを表す割合です。同じ90パーセントでも、暖かい場所と非常に寒い場所で、含まれる水分量が同じにはなりません。
さらに内陸では、乾いた空気の下降によって雲ができにくい傾向があります。対して沿岸は、低気圧の影響を受け、水分も供給されやすい場所です。海に囲まれた大陸だからといって、海の近くと高い内陸が同じように潤うわけではありません。
少ない雪が残り続けてできた、巨大な氷床
降る雪が少ないのに氷が厚いのは、一年間の供給量と、長期間に蓄えられた量を比べているためです。雨の多い場所でも水がすぐ流れ出せば深い湖にならないように、雪の多さだけで氷の厚さは決まりません。
氷床が育つ条件は、加わる雪の量が、融解や昇華、氷の流出などで失われる量を上回ることです。供給が少なくても、それ以上に失われにくければ、長い時間をかけて残る量が増えます。
蓄積量と出入りする量を区別する模式図です。層の幅は一年分の厚さや年代に対応せず、矢印の太さは流量や質量収支を表していません。説明のため融解・再凍結・底面での熱交換・氷山の分離などを省略しています。南極全体の氷が現在増えていることを示す図ではありません。
積もった雪は上から押され、粒の形を変えながら空気の隙間を減らし、やがて氷になります。ところが、何万年分もの雪を単純に縦へ積み上げ続けるわけでもありません。厚くなった氷は重力のもとで変形し、大陸の縁へ向かってゆっくり流れます。
氷床の厚さは、過去からの積雪と損失、氷の移動、底の地形が重なった結果です。現在の厚さを今年の降雪量で割っても、その場所の氷の年齢にはなりません。
降り積もる雪と、風が運ぶ雪の違い
南極の映像には、横殴りの雪で何も見えなくなる場面があります。けれども、空中に雪が多いことが、その瞬間に雲から多量の雪が降っている証拠とは限りません。
地面にある雪を強風が巻き上げれば、地吹雪になります。空から新しく加わる雪と、すでに降った雪が運ばれている現象を区別する必要があります。
風上で削られた雪が風下にたまると、同じ降雪量でも積雪の厚さに差が生まれます。また、氷が液体にならず直接水蒸気になる昇華によって、雪が失われることもあります。
このため、地面の雪が一年で何センチメートル増えたかは、そのまま年間降雪量ではありません。降ってきた量に、風による持ち込みや持ち出し、昇華などが重なった結果です。強風下で雪の供給を測る難しさは、南極の気象観測の課題でもあります。
雪に覆われないドライバレーと、雪の多い沿岸
南極には、広く雪に覆われた高原だけでなく、岩や土が露出するドライバレーもあります。そこでは降雪の少なさに加え、地形や風によって雪が残りにくいことが関わります。
USGSは、マクマード地域の谷で積雪を調べる際、斜面を下る風が雪の量を減らす影響を考慮する必要があると説明しています。ただし、すべてのドライバレーの乾燥を一つの風だけで説明できるわけではありません。海からの位置、山地、谷ごとの条件も重要です。
逆に、南極の沿岸や半島には、内陸高原より多くの雪が供給される場所があります。「南極は砂漠」という表現を、大陸のどこでもほとんど雪が降らないという意味にすると、こうした差を見落とします。
南極の乾燥と氷の多さは、相反する事実ではありません。一年に新しく届く水は少なくても、すでにある水は氷として残り、ゆっくり移動する。白い大陸の姿には、毎年の天気だけでなく、水が蓄えられてきた長い時間も表れています。
参考資料
- USGS:Types of Deserts、極地砂漠の降水量と気温の条件
- USGS:What Is a Desert?、乾燥地域の分類
- Australian Antarctic Program:Antarctic weather、雪の年間蓄積・水当量・吹雪
- NSIDC:Science of Glaciers、雪の圧密と氷河の形成
- NSIDC:Why Ice Sheets Matter、積雪と氷の流出・消耗を含む質量収支
- British Antarctic Survey:A humidity climatology for Halley, Antarctica、低温での相対湿度の観測
- USGS:EarthWord: Katabatic Winds、ドライバレーの雪と風