南極の氷を取り除いた地形図には、山脈や深い盆地が描かれています。ところが、その大部分は人が足で踏んだことのない地面。厚さ数千メートルもの氷に隠れた起伏を、いったいどうやって測ったのでしょうか。
主役は、氷の中を進む電波を使ったレーダーです。表面の高さと氷の厚さを別々に調べ、飛行機などで得た細長い観測の列をつないで、地下の地形を復元します。ただし、完成した地図のすべての場所を直接測れたわけではありません。見事な一枚の地図には、観測値と、その間を補う推定の両方が含まれています。
氷の表面とは違う、下に埋もれた山と谷
雪原がなだらかだからといって、その下の岩盤まで平らとは限りません。厚い氷は地形のくぼみを埋め、長い時間をかけて変形しながら流れます。表面に現れる起伏は、下の山や谷をそのまま写したものではないのです。
東南極には、氷に覆われたガンブルツェフ山脈があります。この地域を調べた国際共同観測では、氷を透過するレーダーに加え、重力や磁気の測定も用いられました。山の輪郭を知る作業と、その山がどのような地質からできたかを探る作業は、同じ機器一つで済むわけではありません。
衛星写真に白く写るものは、基本的には氷や雪の表面です。「氷の下の地図」が普通の航空写真のように一度の撮影で手に入る、という理解では、最も大切な観測の仕組みが抜け落ちてしまいます。
反射して戻るまでの時間から測る氷の厚さ
レーダーは電波を送り、戻ってきた信号を受け取る装置で、氷を調べる用途では内部を比較的よく通る周波数帯を使います。反射が起こるのは一番下だけではなく、氷の表面や内部の性質が変わる層も含まれるため、受け取る信号には深さの異なるいくつもの境目が現れます。
深い場所からの反射ほど、往復に時間がかかります。そこで、氷の中を電波が進む速さと往復時間を組み合わせれば、反射面までの距離を計算できます。行きと帰りの両方を測っているので、往復距離をそのまま氷の厚さにすることはできません。
実際の解析では、機体から氷表面までの空気中の経路や、上部の締まりきっていない雪の層も考慮します。温度や水の存在、地形の複雑さによって信号が弱まったり、横の斜面からの反射が混ざったりすることも。画面に出た線のどれが本当の底なのかを見分ける作業まで含めて、氷厚の測定なのです。
実測値ではなく観測原理の模式図です。送信と受信の経路は見分けられるよう横にずらして表示し、電波が四本の独立した細い線だけを通るという意味ではありません。氷内部の反射・屈折や空気中の経路の補正などは省略。氷床下湖や棚氷の下の海水がある場合は、氷の底と岩盤を別々に扱う必要があります。
表面の標高から氷厚を引く、地下の高さの求め方
氷の厚さだけでは、岩盤の標高は決まりません。衛星や航空機で測った表面の標高も必要で、氷が直接岩盤に載っている場所なら、同じ高さの基準を使って「氷表面の標高−氷の厚さ」と計算できます。
たとえば、表面が標高2,000メートルで、氷が2,500メートルあるとしましょう。岩盤は標高マイナス500メートル。高い雪原の下に、現在の海面より低い盆地が隠れていても不思議ではありません。この数字は説明用ですが、表面が高いことと底が高いことは別、という関係は実際の氷床でも重要です。
ただし、氷の下に湖がある場所では、氷の底と湖底の岩盤は同じ面ではありません。海に浮く棚氷でも、氷の下には海水があります。単純な引き算が何の面を求めているのかを区別しなければ、水の底まで氷が詰まった断面図になってしまいます。
500メートル格子と、500メートルごとの実測の違い
2025年に公表された南極の地形データ「Bedmap3」は、過去の観測に新しい調査を加えたものです。論文によると、使われた氷厚調査の元データは計約8,200万点。前の版から追加された点は約5,200万点で、この二つは別の数字です。
最終的な地図は500メートル間隔の格子に整理されています。しかし、飛行機は格子を一つずつ埋めるようには飛びません。飛行経路に沿っては細かく測れても、隣の経路までには広い空白が残るため、その間を計算で補う必要があります。
論文では、氷厚の500メートル格子の93%が補間値とされています。補間とは、周囲の観測などに基づいて間の値を推定すること。色が滑らかにつながった地図でも、どこも同じ確かさで分かっているわけではありません。新たな調査で谷の位置や深さが変わるのは、山が突然動いたのではなく、見えなかった部分の情報が増えた結果でもあります。
氷を透かさずに探る、地下の湖の水位変化
地下の水を調べる方法は、レーダーだけではありません。NASAの衛星ICESat-2はレーザーで氷の表面の高さを精密に測り、氷の下で水がたまったり抜けたりする現象を捉えています。
ここではレーザーが数千メートルの氷を突き抜けて、湖底に届いたわけではありません。地下の湖の水量が変わると、上に載る氷の表面がわずかに持ち上がったり沈んだりする。その変形を手掛かりに、水の出入りを推定したのです。
2021年に報告された研究では、西南極の既知の湖の活動に加え、新たな活動的な氷床下湖も確認されました。内部から戻る電波と、表面の上下を測る光。違うものを測る観測を組み合わせることで、静かな雪原の下で動く水まで研究対象になります。
氷の流れと海面変化を左右する、隠れた地形
山脈や盆地の位置は、地下世界への好奇心を満たすだけの情報ではありません。氷がどこへ流れ、底の水がどこに集まり、海との境目でどのように支えられるかに関わります。氷床の将来を計算するとき、底の地形を間違えれば、氷の動きの見積もりも変わり得ます。
とくに沿岸では、岩盤に接していた氷が海に浮き始める境目が重要です。そこから内陸へ向かう底の傾きや深い溝のつながりは、氷と海が接する条件を左右するため、細かな地形の把握が求められます。
一方、「氷を取り除いた地形図」を、そのまま氷が消えた未来の海岸線と考えることはできません。氷の重さがなくなれば地面の高さも変わり、海面も現在の位置に固定されたままではないからです。地図が示すのは、まず現在の氷の下にある地形。その構造を知ることが、過去の南極と、これからの氷床を考える土台になります。
参考資料
- British Antarctic Survey:Looking through the ice(ガンブルツェフ山脈の観測手法)
- Pritchardほか(2025):Bedmap3 updated ice bed, surface and thickness gridded datasets for Antarctica
- NASA:NASA Space Lasers Map Meltwater Lakes in Antarctica With Striking Precision
- NASA Scientific Visualization Studio:Antarctic Bedrock
- NASA JPL:Slowdown in Antarctic Mass Loss from Solid Earth and Sea-Level Feedbacks Simulation