鳴門海峡では、海の上に渦が生まれ、ほどけ、また別の場所に現れます。洗面台の排水口のような穴が海底にあるわけではありません。それなのに、なぜ水は同じ方向に流れるだけでなく、回転を始めるのでしょうか。
渦潮の直接の原因は、速い潮流と、その横にある遅い流れとの速度差です。その速い潮流を生むのが、海峡の両側で潮の満ち引きの時刻がずれることと、狭く複雑な海底地形。大きな海の水位変化が、海峡の小さな渦へとつながっています。
つながっている海に生じる、満ち引きの時間差
鳴門海峡の北側は播磨灘、南側は紀伊水道です。どちらも同じ海につながっていますが、満潮や干潮がまったく同じ時刻に来るわけではありません。海の潮汐は、入り組んだ湾や海峡を通るあいだに、強さや到達する時刻が変わるためです。
瀬戸内海には、豊後水道を通る西側からの潮汐と、紀伊水道・大阪湾・明石海峡などを通る東側からの潮汐が伝わります。経路の長さだけでなく、水深や海の形、波の反射も関係します。潮の高まりが、ひとつの水の塊になってぐるりと移動するという意味ではありません。
その結果、鳴門海峡を挟む二つの海で、水面の高さに差ができます。徳島県の説明では、その差は大きいときで約1.5メートル。海峡の一方が高く、他方が低い状態になると、高い側から低い側へ海水を動かす力が生じるのです。
狭い海峡で速まる流れと、岸近くの遅い水
海の広い部分と違い、淡路島と四国側の間にある鳴門海峡では、水が通れる断面が絞られます。大量の海水が限られた通り道へ集中するため、強い流れが生まれるのです。
海上保安庁は、鳴門の潮流が最大11ノット、時速に直すと約20キロメートルに達すると説明しています。これは常時の速度ではありません。また、海峡の幅全部で同じ速さの水が流れているわけでもないのです。
深い中央部を進む強い流れ。そのすぐ脇には、海底や岸との摩擦、岬や浅瀬の影響を受け、比較的ゆっくり動く水があります。海峡を通る水が全幅にわたって同じ速さになるわけではなく、この速度の違いが渦の出発点になるのです。
流れの境目が巻き上がる、渦の誕生
隣り合う水の帯が別々の速さで動き、流れを横切る方向に速度が変わる状態を、せん断と呼びます。その境界が不安定になると、小さな揺らぎが大きくなり、周囲の水を巻き込む回転へ成長します。
流速差による巻き込みを単純化した模式図です。実際の海岸線・海底地形・渦の位置や大きさを再現したものではありません。矢印の長さは観測流速ではなく、渦が常に左右対称にできるわけでもありません。
渦は、最初から丸い水の塊が用意されていたものではありません。隣り合う流れの差が、回転する運動をつくっています。回り始めた渦は流れに運ばれ、別の渦と関わったり、周囲の水を混ぜたりしながら、やがて形を失います。
したがって、同じ場所に一つの巨大な渦が居座り続けるわけではありません。映像で渦が次々に現れるのは、個々の渦が短い時間で変化しても、それを生み出す速い流れと遅い流れの境界が続いているためなのです。
渦の回転には海水面の傾きも伴います。中心が周囲より低く見えることがありますが、その形を見て「海底の穴へ大量の水が吸い込まれている」と考えるのは適切ではありません。中心のくぼみは、回転する水の運動と水圧のつり合いに関わるものです。
大潮でも、一日中同じ渦にはならない理由
新月や満月のころは、月と太陽による潮汐の作用が重なる大潮の時期です。満潮と干潮の水位差が大きくなるため、一般に鳴門でも強い潮流と大きな渦が生まれやすくなります。
ただし、満潮の水位が高いことと、その場所の流速が最大になることは同じではありません。鳴門では海峡の両側の水位差に加え、すでに動いている水の慣性なども関係します。一地点の満潮時刻だけで、海峡の流れの強さを決めることはできないのです。
海上保安庁の潮流情報を開くと、北流・南流の速さと、その間で向きが変わる転流の時刻を確認できます。単なる満潮・干潮の時刻表ではなく、海峡を実際に水がどちらへ進むかを示したものです。向きが変われば、強い流れが広がる側も、渦のでき方も同じではありません。
海底のくぼみと渦潮は、一対一の対応ではない
鳴門の海底には、深く削られた海釜と呼ばれる地形があります。強い流れが砂や礫を動かし、長い時間をかけて岩盤や堆積物を削ってきました。海底地形が流れを変える一方で、その流れもまた海底を変えてきたのです。
しかし、目の前の一つの渦の直下に、一つの丸い海釜があるとは限りません。海釜は長い時間をかけた侵食の地形、渦はそのときどきに発達して移動する水の運動だからです。大鳴門橋の下という位置だけでなく、水深が変わる場所や、本流が広い海へ出る場所も流れの形に関わります。
鳴門の渦潮は、月と太陽による潮汐、瀬戸内海の入り組んだ形、海峡の狭さ、流れの横方向の速度差がそろった現象です。海全体を動かすゆっくりした満ち引きが、数十メートルほどの回転として目の前に現れているのです。