インド西部の山や崖には、巨大な階段を重ねたような景観があります。この地形に関係するデカン・トラップの「トラップ」は、英語の罠という意味ではありません。階段を意味する北欧系の語に由来する地質用語です。
階段の材料は、何度も流れ出して固まった玄武岩質の溶岩です。ただし、噴火のときに最初から整った階段ができたのではありません。重なった溶岩の層が、その後に違う速さで削られたことが、現在の段差をつくっています。
山頂の火口一つでは説明できない、洪水玄武岩
火山という言葉からは、富士山のような円錐形の山を思い浮かべがちです。しかし、大量の流動的な溶岩が広い範囲を覆い、何層にも重なる噴火もあります。洪水玄武岩と呼ばれるもので、「洪水」は水の洪水を意味しません。
デカン・トラップでは、約6600万年前を中心とする火山活動によって、膨大な量の玄武岩質の溶岩が重なりました。インド地質調査所は、現在も地表に分布する範囲を50万平方キロメートル以上、厚い場所の積み重なりを2,000メートル以上と説明しています。
一度の噴出がその全体をつくったわけではありません。複数の溶岩流が時間をおいて広がり、その上へ次の溶岩が載りました。また、デカン高原全体が同じ玄武岩で覆われているわけでもありません。階段状の崖の説明は、主に西部・中部のトラップの分布域に当たります。
一枚の溶岩流にもある、緻密な内部と穴の多い部分
一回流れた溶岩が固まっても、その中身は均一ではありません。内部には緻密な部分ができる一方、上部などには、もともとガスの泡があった穴が残る場合があります。こうした穴を持つ岩は、多孔質の玄武岩です。
溶岩の表面が先に固まって砕け、その上に次の流れが載った場所もありました。冷え方に応じて割れ目の入り方も変わるため、同じ黒っぽい岩に見えても、水の入りやすさや崩れやすさには上下の違いがあります。
噴火と噴火の間には、露出した溶岩が風化して土壌になったり、川や湖の堆積物がたまったりした時期もありました。黒い溶岩の間に挟まる赤い粘土状の層などは、噴出が休んでいた間の地表を考える手掛かりになります。
硬い部分が崖、削られやすい部分が斜面へ
厚い溶岩の重なりを川が切り込むと、その断面が露出します。緻密でよくつながった岩層は急な崖を保ちやすく、風化した層や砕けやすい部分は先に削れ、緩い斜面や棚になります。
侵食への抵抗力を二色で単純化しています。一段が必ず一回の噴火に対応するわけではありません。実際の溶岩流の厚さ、割れ目、風化層、斜面形は場所によって異なります。
この急な面と緩い面が繰り返されると、遠くから階段状に見えます。階段の一段が必ず一回の噴火に対応するわけではありません。一つの溶岩流の内部にも性質の違いがあり、複数の流れが一つの崖をつくる場合もあるためです。
水平に近い層が繰り返すことも、段状の地形に欠かせない条件です。同じ材質の組み合わせでも、層が大きく傾けば硬い部分が尾根として現れるなど、別の形になり得ます。
溶岩と溶岩の間に残る、湖や生きものの時間
溶岩の間に挟まる堆積層は、インタートラッペアン層と呼ばれます。川や湖の堆積物を含む場所もあり、噴火の合間に地表で何が起きていたかを調べる手がかりです。
黒い溶岩が連続する断崖も、地質学的には途切れのない一回の出来事ではありません。溶岩が冷え、水が流れ、堆積物がたまり、再び溶岩に覆われる。岩層の境界には、景観がまったく異なっていた時間が挟まっています。
デカンの噴火の時期は、白亜紀末の大量絶滅の時期と近接しています。そのため、年代を精密に測る研究が進められてきました。ただし、現在の崖の一段を見ただけで、噴火が絶滅に与えた寄与の大きさまで分かるわけではありません。年代、噴出量、放出されたガスなど、別々の証拠が必要になります。
黒い岩盤の中を通る、地下水の道
玄武岩が分厚く重なっていると、地下水が入る隙間はなさそうに見えます。しかし、緻密な岩そのものと、割れ目や風化した部分を含む岩盤全体は、分けて考える必要があります。
地下水は、つながった割れ目や、溶岩流の境界付近を通ることがあります。泡の穴が多い岩でも、穴同士がつながっていなければ、水が容易に移動するとは限りません。穴が後から別の鉱物で埋められている場合もあります。
崖に見える層の違いは、地下で水がどこにたまり、どこを流れるかにも関わります。デカンの階段は、巨大な噴火の積み重なりを示すとともに、一見同じ玄武岩にも異なる性質の部分があることを地表へ映した景観なのです。