スマトラ島のトバ湖は、湖の向こう岸が一つの山の斜面とは思えないほど広く、その中央には大きなサモシール島があります。火山の湖と聞いて小さな山頂の火口を想像すると、まったく違う景色に見えるでしょう。
トバ湖の広さを生んだのは、巨大噴火に伴う地面の陥没です。しかも中央の島は、単に沈み残った山頂ではありません。いったん下がったカルデラの底が再び持ち上がったことが、湖と島の組み合わせを生みました。
山頂の穴ではなく、広い地盤が沈んだカルデラ
火口はマグマや火山ガスが噴き出す口ですが、カルデラは大規模な陥没などで生じる、より広い凹地です。両者を同じ穴の大小だけで考えると、トバ湖の成り立ちはつかみにくくなります。
地下に蓄えられていた大量のマグマが短時間に噴出すると、その上にある地盤を支える条件が変わります。地盤が断層に沿って落ち込み、周囲の崩壊も加わって広い凹地が残る。これが、トバのような大規模カルデラをつくる基本的な仕組みです。
つまり、爆発が地面を上向きに吹き飛ばした量だけで湖の広さを説明するわけではありません。地下から物質が大量に出たことと、地表が沈んだことが組み合わさっています。噴煙の大きさだけでなく、地盤全体の変形が湖の形を決めたのです。
約7万4千年前の噴火と、それ以前の火山活動
現在のトバ・カルデラを語るうえで中心となるのは、約7万4千年前の巨大噴火です。火山灰や高温の火砕物が広範囲へ広がり、現在の湖が入る大きな凹地の形成に結び付きました。
ただし、トバの活動はこの一回で始まったのではありません。スミソニアン協会の火山データベースは、約120万年前に始まる四回の主要な火砕流噴火を挙げています。現在の地形には、長く続いた火山活動が重なっているわけです。
同データベースが示すカルデラの大きさは、およそ35キロ×100キロ。一方、ユネスコが示す現在の湖面積は約1,100平方キロメートルです。両者はカルデラ全体と水面という別の範囲で、陥没地には水没していない島や斜面も含まれます。
サモシール島に残る、湖底だった証拠
中央に島があると、「噴火しなかった部分がそのまま残ったのだろう」と思うかもしれません。サモシール島の重要な特徴は、地表に湖で堆積した地層が見つかることです。現在は水面より高い場所にある堆積物が、かつては湖底で積もったと分かります。
湖底の地層が高い場所にある理由は、湖の水が減った場合だけではありません。ここでは地層自体が持ち上がり、傾いたことを示す証拠があり、カルデラ底の再隆起が研究されてきました。こうした隆起地形を再生ドーム、またはリサージェントドームと呼びます。
陥没と再隆起を区別する模式断面です。実際の断層・島の形・地層の厚さ・水位を復元していません。地表へ溶岩を積み上げる過程とは区別し、後続の局地的な噴火は省略しています。
2015年の研究は、堆積物の年代や位置を調べ、サモシール島の大規模な隆起を検討しました。湖ができたあとも、地形づくりは終わっていなかったのです。沈んだ地面に水がたまり、その底の一部が再び陸地になったという順序が、島の存在を説明します。
溶岩が積もる島と、地面が押し上がる島
噴き出した溶岩を上へ積むのか、それとも地面を下から持ち上げるのか。再生ドームの形成で主要な役割を担うのは後者です。地下のマグマの動きなどに伴い、既存の岩石や堆積物が隆起します。
もちろん、両者が完全に別々の場所で起こるとは限りません。トバでは巨大噴火後の溶岩ドームも知られ、断層、隆起、後続する火山活動の関係が調べられています。2017年の研究も、噴火後のマグマ系の活動とサモシールの地形変化を関連付けました。
サモシール島は、後からできた一個の火山だけで説明できる島ではありません。カルデラ内部の地盤の変形が大きな骨格をつくり、その上に堆積や侵食、局地的な火山活動の痕跡が重なっています。
火山灰に残る磁気が問い直す、噴火の時間
約7万4千年前の巨大噴火は、従来、短期間の一連の出来事と考えられてきました。ところが2026年には、噴出物の一部に時間の隔たりがある可能性を示す研究が発表されています。手掛かりは、岩石や火山灰に残された地球の磁場の記録でした。
地磁気の向きは時間とともに変化します。研究チームが調べた噴出物では、下の層と上の層が記録する磁気の方向に差があり、複数の噴火の間に長い休止があったと解釈されました。同じ噴火系列の物質でも、すべてが間を置かずに積もったとは限らないわけです。
ただし、調査地点は限られ、時間差の推定には地磁気が変わる速さの仮定も含まれます。噴火史を見直す提案であり、全過程が確定したわけではありません。湖の広さや噴出物の総量に加え、それがどれだけの時間をかけて生じたかも、今なお研究の対象なのです。
湖岸の急斜面と、湖が集める水
トバ湖の周囲の高い地形は、湖へ流れ込む水の範囲も決めています。雨が降れば斜面を下り、沢や川を通じて低い湖へ集まります。火山活動は湖の器をつくり、その後は水の循環が器を満たしてきました。
ここで、噴火の規模と現在の湖の水量を直接結び付けることはできません。湖の水位には、雨や河川から入る水、蒸発、流出も関係します。カルデラの形ができたあとも、土砂が流入し、湖岸が削られ、島の周囲には堆積物がたまっていくのです。
トバ湖を生んだ噴火は、人類史への影響でもよく話題になります。ただし、巨大噴火が起きたという地質学的事実と、それが人類をどの程度減少させたかという仮説は分ける必要があります。湖の広さだけから、世界全体の人口変化を証明することはできません。
この湖の景観で、とくに確かな手掛かりになるのは、外側のカルデラ壁と内側のサモシール島の対比です。地盤が大きく下がった場所の中に、今度は持ち上がった場所がある。水面を挟んで向かい合う二つの地形が、噴火後にも続いた地下の変化を伝えています。