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イシククル湖はなぜ高山でも凍りにくいのか 深い湖の熱と塩分の働き

公開日

雪を載せた天山山脈の間に、冬も広い水面を見せる湖があります。キルギスのイシククル湖です。標高は約1600メートル。それほど高い場所なのに凍りにくい理由を、塩分の一言だけで説明することはできません。

鍵になるのは、深く大量の水が蓄える熱と、その熱を表面へ運ぶ水の動きです。そこへ塩分が加わると、凍る温度も水の混ざり方も、淡水の湖とは違ってきます。寒い山に囲まれているのに、湖水まで同じ速さでは冷えきらない。その理由を、水の内側から考えてみましょう。

標高1600メートルの湖にある、深さ600メートルを超す水の層

イシククル湖の最大水深は約665メートル。山に囲まれた浅い池ではなく、地下深くまで続く大きな水の器です。2002年に公表された湖水の調査論文では、沖合の冬の混合層でも水温が4度を上回ることが説明されました。

ここでいう「凍らない」は、主に広い沖合の水面についての特徴です。湖の全地点がいつも同じ水温という意味ではありません。川の水が入る岸辺と深い沖合では、塩分も水の動きも異なります。

冬の寒気より、ゆっくり冷える大量の水

風呂のお湯をコップ一杯だけ取り出すと、浴槽に残ったお湯より早く冷めることがあります。水の量に対して、熱を逃がす面がどれほどあるか。その比率が、温度の変わり方を左右するためです。

湖でも大気に接するのは主として表面ですが、冷える対象は薄い一枚の水だけではありません。風や水温差によって下の水と混ざれば、より厚い水の層から熱が供給されます。夏までに蓄えた熱を冬の間に失いきるかどうかが、氷の張り方を分けるのです。

同じ面積の水面でも、その下に1メートルの水がある場合と、100メートルの水が熱の交換に加わる場合では、冷やすべき水量が違います。これはイシククル湖の混合深度を示す数字ではなく、水深の役割を考えるための比較です。水量が増えても熱を逃がす水面は同じなら、同じ温度だけ下げるのに失うべき熱は多くなるわけですね。

凍結に関わる、熱の蓄え・混合・塩分の違い
深い湖の上方に熱が逃げる矢印、湖内には水が混ざる矢印がある。塩分による凝固点の低下と、多量の水の冷えにくさを区別する。

熱の出入りを示す模式断面です。実測の温度分布や混合深度ではありません。毎冬すべての湖水が底まで一様に混ざるという意味ではなく、岸辺などの部分的な結氷もあり得ます。

ただし、深さ665メートルの水が毎冬すべて一度に混ざる、という説明は正確ではありません。表層の混合と深層水の入れ替わりには異なる過程があり、湖が蓄える熱の全部を直ちに使えるわけでもありません。

塩分が変える、凍る温度と水の密度

この湖の沖合で調べられた塩分は、水1キログラムに約6グラム。一般的な海水よりかなり薄いものの、淡水とは異なる性質を持ちます。溶けている塩類は氷のできる温度を下げるため、凍結を妨げる方向に働くのは確かです。

しかし、少量の塩を入れれば厳冬でも凍らない水になる、というわけではありません。実際の冬の沖合水温が凍結温度から離れていることを考えると、まず説明すべきなのは、湖がそこまで冷えきらない熱の収支でしょう。

もう一つの作用が密度です。淡水は約4度で最も密度が大きく、それより冷えると軽くなります。一方、塩類を含むイシククル湖の水は、最も重くなる温度が淡水より低くなるため、淡水湖と同じ温度の目盛りでは混合を説明できません。

湖面を冷やす冬に進む、深い水の入れ替わり

深い湖は、表面の景色だけでは内部の動きが分からないものです。研究者は水温や塩分に加え、過去に大気から入った微量の物質を手掛かりに、イシククル湖の深層水が入れ替わる速さを調べました。

その結果は、深い水が長期間まったく孤立しているというイメージとは異なります。2002年の研究は、およそ十年という時間尺度で深層水が更新されることを示しました。冷却や塩分差で重くなった水が深い部分へ入り込む過程も重要です。

この入れ替わりは、酸素を深部へ届ける働きとも結び付きます。湖面が凍るかどうかという身近な疑問の背後に、水中の生きものを支える循環まであるわけです。

湖が気候に従うだけでなく、岸辺の気候も和らげる仕組み

大きな湖は夏の熱を蓄え、寒い季節に少しずつ放出します。そのため湖畔では、周囲の内陸部ほど気温が急激に変化しにくくなります。水面を冷やす大気と、その大気へ熱を戻す湖は、一方通行の関係ではありません。

イシククル湖の不凍性は、標高の割に暖かい魔法の水ではなく、大量の水、季節の熱収支、混合、塩分が組み合わさった結果です。高い山が寒さを示し、その足元の湖が夏の熱をまだ保持している。冬の景色の中で、二つの異なる時間の進み方が同居しています。

参考資料

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