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黒海沿岸のコルキス地方はなぜ雨が多いのか 海からの湿気とコーカサスの山

公開日

黒海の東岸、ジョージア西部には、湿った森と泥炭地が広がっています。コルキスと呼ばれる地方です。周辺には乾いた土地もあるため、世界地図で大まかに位置を確かめるだけでは、この緑の濃さは少し意外かもしれません。

雨の多さを生むのは、西側の黒海と、北・東・南を取り巻く山地の組み合わせです。海から届く湿った空気を山が持ち上げ、雨に変える。そこで続いてきた湿潤な環境は、氷期を生き延びた植物や、雨水で育つ泥炭地とも結び付いています。

黒海に向かって開いた、山に囲まれる低地

ジョージアは、国全体が一様に湿潤なわけではありません。黒海に近い西部と、山地を隔てた内陸側では、空気の入り方も雨の条件も変わります。コルキスの特徴は、海へ開く方向と山が立ちはだかる方向が違うことです。

西側には水蒸気の供給源となる黒海があり、北には大コーカサス山脈、南にも山地が連なります。海側から入った空気にとって、平地を進み続けるだけでは済まない配置なのですね。行く先に斜面があれば、空気は上向きに押し上げられます。

山を登る空気が冷え、雲と雨になるまで

空気が山の斜面に沿って上昇すると、周囲の気圧が低くなるため膨張し、温度が下がります。やがて水蒸気が小さな水滴などへ変わって雲となり、その中で粒が成長すれば雨や雪が降ります。山が雲を物理的に絞るのではありません。

海からの風が続けば、湿気も繰り返し補給されます。空気を一度持ち上げて終わりではなく、次の空気も同じ斜面へ運ばれるため、山の海側は降水が多くなりやすいのです。

山があるだけで雨量が決まらないのは、ここに理由があります。同じ山でも、もともと乾いた空気が来る場合と、水蒸気を十分含んだ空気が来る場合では、雲になる水の量が違うでしょう。湿気の供給と、空気を冷やす仕組みが両方そろうことが、コルキスの地理的な強みです。

黒海と周囲の山地が支える、多雨の条件
左の黒海から水蒸気が供給され、空気が右の山を上ると冷えて雲と雨が生じる。海と山の間に低地がある。

海側から湿った空気が入る場合の模式図です。実際の山並み・標高・風向頻度を表す断面ではなく、前線や低気圧などによる雨もあります。コルキスの森林は熱帯雨林ではありません。

実際の雨には低気圧や前線なども関わり、風向きも常に一定ではありません。地形がする仕事は、あらゆる雨を単独で生むことではなく、湿った空気が来たときに上昇と降水を強めることです。

熱帯ではない場所にもある「雨林」

雨林という言葉から、赤道付近の暑い森を連想しがちです。しかしコルキスの雨林は、温帯の湿潤な森林。高温であることと、十分な水が継続して供給されることは別の条件です。

世界遺産に登録された森には落葉広葉樹が多く、その下に常緑の低木などが豊かに生えています。上の木が葉を落とす季節があっても、下層には緑が残る。その重なりが、温帯の落葉樹林という言葉だけでは想像しにくい景観をつくります。

さらに、海辺から高い山地へ短い距離で標高が変わるため、森林も一種類ではありません。海と山は雨を生むだけでなく、異なる温度の生育場所を隣り合わせに置いています。

氷期にも植物が残った、湿潤な避難場所

現在の森を理解するには、今日の雨量だけでは足りません。氷期の寒冷化や乾燥によって、多くの地域では植物の分布が大きく変わりました。その中でコルキスは、古い系統の植物が生き残る場所の一つになったのです。

こうした場所を、研究ではレフュジア、つまり生物の避難場所と呼びます。周囲から消えた植物が地域内で存続できれば、暖かい時期に再び広がる出発点にもなるでしょう。

もちろん、同じ一本の木や同じ森の配置が何百万年も不変だったわけではありません。変化の中でも生き残れる環境が地域として保たれ、長い時間を要する進化や種の蓄積が途切れにくかったことに意味があります。

川の氾濫だけに頼らない、雨で育つ泥炭地

海岸に近いイスパニなどの泥炭地では、多い雨が水の供給を支えます。地面が湿り続けると、植物の遺体が酸素の少ない環境で分解されきらずにたまり、泥炭になります。湿地があるからといって、必ず大河の水が流れ込んでいるとは限りません。

コルキスには、雨水が泥炭の中を浸透していく独特の湿地が残されています。上空から届く水が地中の水分を保ち、そこで植物が育ち、その遺体がさらに水を蓄える地面を厚くしてきました。

雨の多い海岸、古い植物の残る森林、足元に積もる泥炭は、別々の名所ではありません。黒海と山地がつくる水の条件が、空から森林、さらに地面の内部へと連続して表れた景観なのです。

参考資料

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