細い岩の柱の上に、大きな石の帽子が載っている。トルコのカッパドキアには、そんな不安定にも見える奇岩が並びます。誰かが石を積み上げたのではなく、もともと続いていた地層の周囲が削られ、柱として残った姿です。
ただし、どこでも同じ形になるわけではありません。噴火で積もった物質の固まり方、上に重なる層の強さ、割れ目、水の流れ方が重なると、帽子付きの岩塔が育ちます。火山は材料を用意し、その後の長い侵食が形を仕上げたのです。
溶岩の柱ではなく、火山から広がった堆積物
カッパドキアの大地には、火山灰や軽石などを含む厚い層が分布しています。高温の火砕流が広範囲へ流れ、堆積したものはイグニンブライトと呼ばれます。地表を流れた溶岩が、そのまま細い塔になって固まった景色ではありません。
この地域の火山活動は一回ではなく、川や湖での堆積も間に挟まりました。したがって地層は、均一な灰の塊というより、性質の違う層を重ねたものです。現在見える山だけを噴出口と決めつけることもできず、古い火砕流の供給源には地中に埋もれたカルデラが含まれます。
同じ火山灰でも違う、侵食への抵抗力
熱い火砕流の堆積物では、粒同士が押しつぶされてくっつく「溶結」が起こることがあります。冷えてばらばらに積もった粒と、熱いうちに一体化した粒では、同じ火山由来でも締まり方が違うわけです。その後の変質や割れ目の入り方まで同一とは限りません。
上の層が比較的削られにくく、下の層が削られやすい場所では、上の岩が下を守る配置が生まれます。では、帽子は必ず玄武岩なのでしょうか。実際には岩質や成り立ちが場所ごとに異なり、形を生む決め手は「特定の岩石名」よりも、上下の侵食への強さの差にあります。
帽子の下だけが残る、差別侵食の仕組み
雨水は平らな面を一様に薄く削るだけではありません。わずかな低まりや割れ目へ集まり、溝を深くしていきます。溝の間に残る部分には、周囲より高い柱になる可能性が生まれます。
その頂部に強い岩があれば、真下の軟らかい層へ雨が直接当たりにくくなります。柱の側面は削られながらも、周囲の地面より残りやすくなる。このように材料の違いによって削られ方が変わる作用が、差別侵食です。
差別侵食の一例を示す模式図です。帽子は必ず玄武岩というわけではなく、固まり方の違う火山砕屑物なども関係します。すべての奇岩の形や現地の地層順序を再現していません。
帽子が完全な傘になるわけではなく、水は縁からも側面からも作用します。下の柱が細くなって支えきれなくなれば、帽子は落ちてしまうでしょう。今度は柱の頂部も雨にさらされるため、同じ形を保ち続けることはできません。
柱の高さを「地面から伸びた長さ」と考えると、この経過は理解しにくくなります。実際には、周囲の地面のほうが低くなった結果、柱が高く見えるのです。岩塔の頂部に残る層は、周りにも地層が続いていた時代を示す手がかりになるでしょう。
割れ目と斜面が決める、塔の間隔と形
同じ地層でも、割れ目が密な場所と少ない場所では、水の入り口が違います。斜面の傾きも、流れる水の速さや集まり方を変えます。岩の硬さだけが分かっても、柱の配置までは決まりません。
そのためカッパドキアには、帽子付きの塔ばかりでなく、円錐状の突起、波打つ斜面、深く刻まれた谷などが共存しています。地面が隆起して川が下刻を進めれば、もともと埋まっていた層も斜面へ現れ、侵食の対象が増えてきました。
風も細かな粒を動かしますが、奇岩のすべてを風だけの彫刻と考えるのは適切ではありません。流水、風化、崩落が働く場所を、地層と割れ目が決めているのです。
人が部屋を掘った岩と、雨が谷を刻んだ岩
ギョレメ周辺では、岩をくり抜いた住居や教会が築かれてきました。比較的加工しやすい火山性の岩が、自然の奇岩だけでなく、人が暮らす空間の材料にもなった例です。
ここには少し逆説的な関係があります。削りやすさは、部屋を掘るには利点でも、雨や風化に対しては弱点になります。観光写真で一緒に写る塔と岩窟建築は、同じ岩の性質を、自然と人間が別の方法で形にしたものと言えるでしょう。
火山の噴出物が固まり、川が台地を刻み、人が壁に入口を掘った。カッパドキアの風景には、材料ができた時間、岩塔が残った時間、人が利用した時間という、異なる長さの歴史が重なっています。