イランの山地を上空から見ると、周囲の地層を突き破ったような丸い山や、そこから舌状に広がる地形が見つかります。主役は溶岩ではなく塩。地下に埋もれていた厚い岩塩の層が変形し、地表へ現れたものです。
岩塩は手で触れれば硬い固体ですが、重い地層の下で長く力を受けると、少しずつ形を変えます。地下から盛り上がる塩ドームと、地上で斜面を下る「塩の氷河」は、その変形が違う場所に表れた姿なのです。
乾いた山の下に埋もれた、かつての海の塩
塩の山の起源をたどると、水が蒸発する環境へ行き着きます。海水などが入り、蒸発で濃縮され、溶けていた塩類が結晶になる。その過程が繰り返されると、蒸発岩という地層ができます。
さらに泥や砂などが上へ堆積すると、塩の層は地下へ埋まります。現在の山の形をした塩が最初からそこにあったのではありません。古い塩の堆積と、のちの埋没・変形を区別する必要があります。
割れて終わるとは限らない、岩塩の変形
手に取った岩塩へ短時間力を加えれば、割れたり欠けたりするでしょう。しかし地下の岩体は、周囲から押さえられたまま、長く力を受け続けます。そこで結晶内部の変形などが積み重なると、液体にならなくても、岩塩全体の形が少しずつ変わるのです。
これは、塩が熱で液体になったという意味ではありません。氷河の氷も大部分は固体のまま変形して流れますが、「流れる」という言葉は液体だけの専売特許ではないのです。
とはいえ、食卓の塩の山が同じように動くわけでもありません。地下の岩塩層では、巨大な岩体に長期間の応力がかかっています。材料だけでなく、力と時間の条件までそろって初めて成立する現象です。
上の地層を押し分ける塩ドーム
岩塩は、深く埋没して締め固められた周囲の地層より密度が小さい場合があります。この密度差に加え、上からの荷重の偏りや地殻の圧縮などが、塩を動かす原動力になります。
弱い場所へ集まった塩が上昇すると、上の地層を持ち上げたり押し分けたりして、柱状の岩体をつくります。このような塩の貫入が「塩ダイアピル」、盛り上がったドーム状の構造が「塩ドーム」です。塩の地層全体が、水平な板のまま一斉に上がるのではありません。
塩の移動を示す模式断面です。塩はマグマのように融けて流れるのではありません。地層の曲がりや断層は省略し、地表の塩が常に同じ速度で動くという意味でもありません。
ザグロス山脈のように地層が圧縮される地域では、塩の動きと山づくりは無関係ではありません。ただ「軽いので浮いてくる」だけでは、どこに、どのような形で塩が現れるかを説明しきれないのです。
地表へ出た塩が斜面に広がる「塩の氷河」
地表に顔を出した塩は、周囲を閉じ込める岩がなくなり、自重で低い方へ広がることがあります。山の両側へ流れれば、上からは蝶の羽や砂時計のような輪郭に見える例もあります。
ここでの氷河は形や流動の類似を表す呼び名であって、雪が積もってできたものではありません。また、塩が水に溶けて塩水として流れることと、岩塩のかたまりが変形して動くことも別です。表面では両方の過程が起こり得ます。
雨が多ければ、露出した塩は速く溶かされてしまいます。乾燥地では溶解による消耗が比較的小さくなり、地表へ供給される塩が大きな流動体として残れる場合があるのです。
地下の塩が押し出される量と、地表で溶かされ失われる量。この釣り合いが違えば、塩が上昇する地域でも地上の姿は変わります。塩の山が見つからないからといって、地下に塩がないとは限りません。反対に大きな露頭があることは、塩を残せる地表の条件も示しています。
白一色ではない塩の山と、地下の地層の変形
ホルムズ島などの塩ドームは、白い食塩の山というイメージに収まりません。塩と一緒に現れる岩石や、鉄を含む鉱物などの影響で、赤や褐色を含むさまざまな色が表れます。色のついた部分がすべて純粋な岩塩というわけではありません。
地下で塩が動けば、周囲の地層も曲がり、切られ、厚さを変えます。その結果、地質図に見える不思議な輪郭は、表面だけの模様ではなく、地下の物質移動を反映したものになります。
普通なら地層は古いものほど下にある、と考えたくなるでしょう。しかし塩ドームでは、古い塩が若い地層を突き抜けて地表へ達します。塩の山が教えてくれるのは、地下の地層も、積んだ順番のまま静止しているとは限らないということです。