イングランド南岸のチェシル・ビーチは、長く延びる砂利の海岸です。特徴的なのは、石の大きさが場所によって違うこと。大まかには西側で小さく、ポートランドに近い東側へ行くほど大きな礫が目立ちます。
軽い石ほど遠くまで流される、という直感だけでは、この並び方を説明できません。波の強さと向き、石が海底や浜にどう載っているか、過去にどこから石が供給されたか。海岸は、それらが重なった選別の結果を残しています。
砂浜ではなく、礫がつくる長い障壁
チェシル・ビーチは、ウェスト・ベイからポートランド側へ延びる海岸で、一部では陸との間にフリート・ラグーンという浅い水域を抱えています。石は海岸線上の薄い飾りではなく、海と背後の水域を隔てる厚い堆積体の材料です。
浜の礫には、フリントやチャートといった硬い珪質の石が多く含まれます。近くの崖の石だけを、その場で少し砕いてできた浜ではありません。海岸の材料には、離れた供給源と長い輸送の歴史が含まれています。
大きな石ほど動かない、とは限らない理由
同じ形の石を同じ条件に置けば、大きな石を動かすには一般に大きな力が要ります。しかし実際の浜では、すべての石が同じように水に当たっているわけではありません。
細かい石の間へ埋もれた粒と、表面から突き出た大きな粒では、波の力の受け方が違います。重い粒でも、波を受けやすい位置にあり、いったん動き出したあとに遠くへ運ばれる可能性まで否定はできません。動き始める条件と、その後に運ばれる距離は、分けて考える必要があるのです。
チェシルの追跡調査でも、粒の大きさによる動きの違いが研究されてきました。単純な「小さいものが東へ全部流され、大きいものが西に残る」という説明では、実際の東側ほど粗い分布と合いません。
強さと向きの違う波が繰り返す選別
浜へ斜めに入る波は、礫を岸に沿う方向にも動かします。打ち上げる流れと戻る流れを何度も受けるうちに、礫の分布が少しずつ変わります。この過程は、川のような一本の流れだけで起こるものではありません。
チェシルでは東側ほど外洋からのうねりなどにさらされやすく、浜の傾斜や高さも西側とは異なります。場所ごとの波の条件と粒の動きやすさが組み合わさり、長期にわたる選別が生じます。
粒径の傾向と沿岸運搬を別々に示す模式図です。海岸線・石の大きさ・矢印は実測ではありません。大きな石が常に動きにくいという単純な選別ではなく、波の条件や過去の土砂供給も関わります。
実際には嵐ごとに波向きが違い、海底の地形も波を曲げたり集中させたりします。粗い石と細かい石の境目が機械でふるったように明瞭になるわけではなく、大まかな傾向の中に局所的な違いがあります。
一つの粒を数時間追う調査と、浜の東西を長く比べる調査でも、得られる情報は違うでしょう。今日は西へ動いた粒があっても、長期の分布まで逆向きになるとは限りません。多くの波が繰り返した移動の差が、浜全体の粒径の傾向として残ります。
丸くなる作用と、大きさ別に分かれる作用
石同士がぶつかり、こすれれば角が取れ、やがて小さくなることがあります。これは摩耗です。一方、もともと異なる大きさの石が違う場所へ運ばれるのが選別で、同じ現象ではありません。
長く動いた石がすべて同じように小さくなるなら、材質の違いを説明できません。硬い石と崩れやすい石では残り方が違い、供給された時期も一様ではありません。浜の礫の大きさを、そのまま移動距離の時計にすることはできないのです。
丸み、大きさ、岩の種類を別々に調べるのは、このためです。それぞれが、移動の仕方や供給源について異なる情報を持っています。
今の波だけでは完成しない、海岸の長い履歴
現在のチェシル・ビーチが形づくられる過程には、氷期後の海面上昇や、かつて海底・海岸にあった堆積物の再移動が関わったと考えられています。後には西側の崖などから供給された礫も重要になりました。
その詳しい成立過程には研究上の議論があり、一つの時期、一つの供給源だけにまとめることはできません。また、今日も過去と同じ規模で新しい礫が補給されているとは限りません。手元にある石が再配分されることと、石の総量が増えることは別です。
チェシルの浜は、波が毎日動かす粒と、数千年に及ぶ海岸の履歴が重なる場所です。東西の石の違いは、重い・軽いという一つの性質だけでなく、動かす力と材料の来歴が共同でつくった並び方なのです。