英国のセヴァーン川では、白い波頭が川を上流へ進むことがあります。上流から来る洪水でも、海で起きた地震の津波でもありません。満ち潮に伴って生まれる「海嘯」で、セヴァーン・ボアと呼ばれます。
海面が上がるだけなら、多くの河口で起きる普通の現象です。それが目に見える波の前線になるには、干満差の大きさに加えて、河口が狭まり浅くなる地形や、川の流れなどの条件が重なる必要があります。
広い海から狭い川へ水が入る、漏斗状の河口
セヴァーン川は、ブリストル海峡を通して大西洋側とつながっています。海峡から河口の奥へ向かうと水路が狭まり、広い海側の水位変化が細い川へ入り込む形になります。
この地域は干満差の大きさでも知られています。しかも上流へ向かう水路は、幅が狭くなるだけでなく、水深も浅くなるという組み合わせです。海から入る潮の動きを、川幅だけから説明することはできません。
ただし、漏斗の形をした河口なら必ず大きな海嘯になるわけではありません。川底の抵抗や上流からの水量、潮の大きさによっては、水位が比較的なだらかに上がるだけにとどまります。
なだらかな水位上昇が、急な段差に変わるまで
満ち潮が浅い水路へ伝わるとき、上昇する水面の形はそのまま保たれるとは限りません。深い部分ほど水位変化が伝わりやすいという性質が、川の流れや摩擦と組み合わさり、前面を急にしていきます。
その結果、前方の低い水面と、後方の高い水面の境目が波頭として進むことがあります。水面の段差が上流へ移動する現象、と考えると、普通の小さな風波との違いをつかめます。
後ろの高い水面側から伝わる変化が、前方の浅い部分へ追いつくと、なだらかな傾きは次第に急になります。もっとも、流れに逆らって進む速さや摩擦も同時に作用するため、水深だけで波高を計算することはできません。ボアは、潮汐が河川の中で形を変えた波なのです。
ボアの先端付近の縦断模式図です。実測の水深・波高・速度を示していません。波の前後で流れは変わるため、青い矢印を川全体に共通する流向として描いていません。
先頭の波の後には、さらに小さな波が続くこともあります。岸近くの浅い場所では白く崩れても、川の中央では滑らかに進む場合があり、一本の波頭でも横断方向に姿が違います。
十数メートルの干満差と、波頭の高さは別の数字
セヴァーン河口の紹介には、十数メートルに及ぶ干満差が登場します。しかし、その高さの壁がそのまま川を駆け上がるという意味ではありません。干満差は、ある場所の干潮から満潮までの水位差です。
海嘯の波高は、波が通過するときの前後の水面や波の頂部の関係を表す別の量です。グロスターシャー州の解説では、大きなセヴァーン・ボアは約2メートルになるとされていますが、毎回その高さに達するわけではありません。
数時間にわたる水位変化を、一瞬に通過する波の高さへ置き換えないこと。この区別だけで、映像に映る波と大きな干満差の数字が矛盾しなくなります。
大潮でも毎回同じ姿にならない理由
大潮は、太陽と月の潮汐への作用が重なり、干満差が大きくなりやすい時期です。大きな海嘯が現れやすい条件ですが、それだけで波の姿が一意に決まるわけではありません。
海側の気圧や風は水位に影響し、上流からの流量は潮に向かう川の流れを変えます。同じ潮の大きさでも、直前の水深や川幅が違えば、先端の急になり方まで同じとは限りません。月と太陽の位置だけでは決まらない、気象と河川の条件が加わっています。
そのため、同じ場所であっても、目立つ白い波が通る日と、目立ちにくい上昇になる日があります。春や秋の大潮が注目される一方、単に暦の日付だけを原因にすることはできません。
波のあとにも続く上流向きの流れ
映像では先頭の白い波頭が主役ですが、そこで潮の作用が終わるわけではありません。その後も水位は高まり、漂流物が上流方向へ運ばれる時間が続く場合があります。
満ち潮が過ぎれば、川は再び海へ水を出す方向へ戻ります。川の地面の傾きが反転したのではなく、下流端の水位が変わるために、水の動きの条件が変わったのです。
セヴァーン・ボアは、川がいつでも一方向へ水を運ぶ装置ではないことを示します。海の周期が川へ入り、その入口の形によって、なだらかな満ち引きが移動する波へ姿を変えています。