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ゴッタルド峠はなぜヨーロッパの交通の要所なのか アルプスの谷がつなぐ南北

公開日

アルプスを越える交通路として、ゴッタルドの名は峠道にも鉄道にもトンネルにも付いています。けれども、アルプスにはほかにも峠があるのに、なぜこの場所が繰り返し選ばれてきたのでしょうか。

理由は山の頂上の低さだけではありません。北からロイス川の谷、南からティチーノ川につながる谷が山地の内部へ入り込み、その間を越えると、ヨーロッパの南北をつなぎやすいことが重要です。ただし、その有利な配置を使うには、谷の途中にある難所を克服しなければなりませんでした。

峠へ上がる前に役立つ、南北から伸びる谷

山脈の横断は、一つの山を登って下りるだけの作業ではありません。ふもとから峠の近くまで、人や荷物が進める道筋が必要です。長い谷が山地の奥まで続いていれば、その分だけ尾根を何度も乗り越えずに済みます。

ゴッタルドの北側ではロイス川の谷が、南側ではレヴェンティーナ谷などが、この進入路の役割を果たします。両側の谷を結ぶ場所として峠を捉えると、山脈全体の中での意味が分かります。

さらに、北へ流れる水はライン川水系へ、南へ流れる水はポー川水系へ向かいます。人が越える峠は、雨水の行き先が分かれる境界でもあるのです。

短い峡谷が、長い交通路を止めることもある

谷が続いていても、谷底を必ず歩けるわけではありません。北側のシェレネン峡谷では、急な岩壁と川が通行の障害になりました。地図上で距離が短い経路が、現地で最も使いやすい経路とは限らないのです。

中世にこの難所へ橋や通路が整備されると、南北を結ぶルートとしての利用が進みました。「悪魔の橋」の伝説で知られる場所ですが、交通史の要点は、渡れなかった区間が渡れるようになったことにあります。

長い道の価値を、途中の短い区間が左右する。ゴッタルドは、峠の標高だけを比較しても交通の重要性を説明できない、分かりやすい例です。

峠越えから、山の低い位置を貫く鉄道へ
山地断面で、峠道、高い位置を通る山岳鉄道、低い位置を通る基底トンネルを比較。両側の谷を結ぶために越える高さが異なる。

経路の考え方を比較する模式図です。実際の地形断面・標高・勾配・線路の曲線やトンネルの位置は再現していません。三つのルートが同じ鉛直面にあるという意味ではありません。

鉄道には、徒歩とは違う勾配の制約

人や荷駄が上れる坂でも、重い貨物列車にとっては大きな負担になります。鉄道は急に高度を上げにくいため、山岳区間では経路を長く取り、曲線やトンネルで勾配を抑える工夫が必要でした。

1882年に開通したゴッタルド鉄道は、峠を地表で越える代わりに高い位置のトンネルを通り、取り付け区間では山を上り下りしました。徒歩や馬車より輸送力が増しても、山越えの高さが消えたわけではありません。

同じ南北方向を結ぶにも、何をどれだけ運ぶかによって望ましい道は変わります。地理的な通り道は共通でも、道路と鉄道が同じ線を忠実になぞる必要はないのです。

山の低い位置を貫く、約57キロの基底トンネル

2016年に営業運転を始めたゴッタルド基底トンネルは、長さ約57キロです。基底トンネルという名の通り、山地の低い位置を貫き、従来より高低差の小さい鉄道ルートを実現しました。

利点は走行距離や所要時間だけではありません。重い列車を高く持ち上げる仕事が減れば、勾配による牽引上の制約を小さくできます。長いトンネルを掘る大きな費用と引き換えに、日々の輸送条件を変えたわけです。

もっとも、トンネル一本でヨーロッパ全体の輸送が完結するわけではありません。両側の線路、駅、ほかの山岳区間、積み替え施設までつながって初めて、その能力を生かせます。

越える高さを変えても、使い続ける南北の軸

峠道、山岳鉄道、基底トンネルを比較すると、人が山に求めた通り方の変化が分かります。地表の通行可能な場所をつなぐ段階から、勾配を調整する段階、そして長い距離を地下で抜ける段階へと進みました。

地下を通るからといって、地理から自由になったわけではありません。出口を置く谷、接続先の都市、地下の岩盤条件が経路を制約します。ゴッタルドが交通の要所であり続けたのは、南北をつなぐ谷の配置を、時代ごとの技術で使い直してきたためなのです。

参考資料

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