ナポリの西側、ポッツオーリ周辺では、地面が長い時間をかけて上がったり下がったりしてきました。建物や港から見れば、海の高さが変わったようにも見える現象です。この地域の地殻変動は、ブラディセイズム、緩慢な地面の上下動として知られています。
この一帯は、カンピ・フレグレイという広いカルデラを持つ火山地域です。円錐形の高い山が目立たなくても、火山の仕組みがないわけではありません。地下のマグマや熱い流体の変化が上の岩盤を変形させますが、地面が上がった事実だけから噴火の日時を決めることはできません。
火山の中心が、一つの山頂とは限らない
カンピ・フレグレイでは、過去の大きな噴火と陥没によってカルデラが形成され、その内部や周辺で後の噴火が起きました。地域の一部は海にも広がっています。山頂の火口を一つ監視すれば済む構造ではありません。
地表には噴気や温泉などがあり、地下から熱やガスが供給されていることが分かります。一方、噴気の見える場所の真下に、そのまま一本の開いた管がマグマまで続くとは限りません。熱水の流路や割れた岩盤などが間にあります。
地面の上下動も、広い範囲の変形として観測されます。ある一点が突き上げられているように見えても、その地下の形を地表だけから直接撮影できるわけではないのです。
地面を持ち上げるのは、地下の圧力と体積の変化
地下へマグマが入り込めば、周囲の岩盤に力を加えます。また、マグマから出るガスや熱によって、地下水を含む熱水系の圧力が変わっても、地表は変形し得ます。マグマと熱水を、互いに無関係な二択と考えるべきではありません。
硬い岩盤でも、広い範囲に長く力が加われば変形したり、割れ目に沿ってずれたりします。どんな地下の変化でも、地表が同じ形に盛り上がるわけではありません。圧力が変わる場所や大きさが、変位の分布に反映されるのです。
圧力の低下や流体の移動などは、沈降に関係する場合もあります。ただし、単純な風船のように膨張と収縮を繰り返すだけの模型では、割れ目や温度、岩石の性質まで再現できません。
圧力変化の概念図で、観測された地下断面や特定の研究モデルではありません。深さ・規模・空洞の存在を示さず、噴火時期や現在の危険度を予測する図でもありません。沈降も起こり得ます。
古代の市場の柱に残った、海中にあった証拠
ポッツオーリのマチェッルムは、古代ローマの市場の遺跡です。かつてセラピス神殿とも呼ばれた場所ですが、地面の上下動を示す証拠として注目されるのは、大理石の柱に残った海生の穿孔性二枚貝の穴です。
海にすむ貝が柱に穴を開けたということは、その部分が一定期間、海中にあったはずです。現在の陸上の姿だけでは分からない、水面との位置関係が残されています。
ここで記録されているのは、柱と海面の相対的な高さの変化です。潮の満ち引きや全球的な海面変化だけでなく、火山地域での土地の沈降・隆起を考慮しなければ、遺跡の履歴を説明できません。
観測値と、地下を推定するモデルの違い
研究者は、GNSSや衛星観測で地面の変位を測り、地震の位置やガスの成分などと照合します。測定された変位は観測事実ですが、それを生んだ地下の圧力源の深さや形は、モデルを使って推定する部分があります。
たとえば2024年にINGVが紹介した、2007~2023年の変形を分析する研究は、マグマの供給と地下の圧力源の変化を結び付けました。これは研究対象期間と仮定を持つ解釈であり、その図に描かれた地下構造を、掘って確認した空洞の形と同一視することはできません。
別のモデルでも地表の変位を似たように説明できる可能性があるため、複数の種類の観測が必要になります。高さだけでなく、地震やガスを同時に調べる理由がここにあります。
隆起の説明と、噴火の予測を分ける理由
1538年のモンテ・ヌオーヴォ噴火の前には、地面の隆起などの変化が記録されました。しかし、過去に隆起の後で噴火した事例があることは、あらゆる隆起が同じ経過をたどる証明にはなりません。
逆に、ゆっくりした上下動という呼び名から、地震や建物への影響が小さいと判断するのも誤りです。現象を説明する名前と、その時点の危険度は別の問題になります。
カンピ・フレグレイの上下動は、地下で熱・物質・力が動いている証拠です。この記事はその仕組みを扱うもので、現在の警戒段階や避難の判断を示すものではありません。最新の状態は、INGVの観測情報とイタリア市民保護当局の発表で更新されています。