クロアチアのアドリア海沿岸を地図で見ると、細長い島が本土の海岸とほぼ平行に並んでいます。島々が波で一方向へ押し寄せられたわけではありません。もともとの山並みや谷の方向を、海が覆った後も引き継いでいるのです。
ダルマチア式海岸という地理用語は、この特徴的な配置に由来します。海面が上がって谷や低地が沈み、高い部分が島や半島として残る。海岸線は、海と陸の境界であると同時に、古い陸上地形の輪郭でもあります。
海岸に沿って続く、ディナル山系の方向
アドリア海の東側では、ディナル山系に関係する地質構造が、広い範囲で北西から南東へ伸びています。褶曲した地層や断層、山地とくぼ地の並びが、同じような方向性を持つ地域です。
ドゥギ・オトク島などの地形研究でも、島の長い軸や起伏が、このディナル方向の地質構造と結び付けられています。島の形を海の波だけで説明するより、海底まで続く岩盤の構造を考える必要があるのです。
ただし、すべての島が定規で引いたように同じ向きになるわけではありません。局所的な断層、岩石の違い、侵食の程度によって、曲がりや切れ目も生じます。
海が谷へ入り、高い部分だけが島に
最終氷期には、現在より多くの水が陸上の氷に蓄えられ、海面は低い状態でした。その後、氷が融けて海面が上がると、以前は陸地だった低い場所へ海が入り込みました。
尾根と谷が海岸に沿って並んでいる土地なら、谷は細長い水路となり、尾根の高い部分は細長い島として残ります。島と島の間の海峡も、陸地がばらばらに離れてできた隙間とは限りません。低い地形が海に覆われた結果です。
この過程では、海面変化だけでなく陸地の上下動も関係します。実際の沿岸史は場所ごとに違いますが、山並みの方向を引き継ぐという基本関係は、現在の地図にもよく表れています。
沈水による配置の変化を示す模式図で、実際の海岸線や過去の海面高度ではありません。地殻変動や局所的な地質の違いも関係し、全島が同じ成因ではありません。
入り江が多い海岸でも、谷の向きは同じではない
海が陸上の谷へ入る地形は、ダルマチアだけにあるわけではありません。リアス海岸やフィヨルドも、海水が以前の谷を満たした部分を持ちます。しかし、谷をつくった主な作用や、谷が海岸に対して向く方向が異なります。
ダルマチア式海岸で目立つのは、海岸に平行する山地とくぼ地の並びです。海岸を横切る谷が多数沈んだ場合には、深い入り江が陸の内側へ食い込む形が目立ちます。どちらも複雑な海岸線ですが、同じ平面形ではありません。
地形の名称は、見た目を仕分けるだけの札ではありません。何が沈み、どの方向に並んでいたかまで含めると、名前の背後の成り立ちが分かります。
海中の洞窟に残る、陸上だった時代の証拠
この沿岸には石灰岩が広く分布し、雨水や地下水による溶食で洞窟が発達します。現在は海中にある洞窟でも、かつて空気中で成長した鍾乳石が残る場合があります。
鍾乳石は、炭酸カルシウムを含む水が洞窟内で鉱物を析出させて成長したものです。海中の場所で、空気中でできた鍾乳石の年代を調べれば、その洞窟が当時は海に沈んでいなかったことを検討できます。
クロアチア沿岸の研究では、こうした水没洞窟の資料が海面変化の復元に用いられています。地図で推測される「沈んだ陸地」に対し、岩石の内部からも時間の手掛かりが得られるわけです。
島の間の水路も、古い地形の一部
船から見えるのは水面と島ですが、その下にも斜面と谷底が続いています。海面を基準に切り取ると島々に分かれて見える地形が、海底まで含めると一連の起伏になる。この立体的な関係が、平行する島列の鍵です。
一方、クロアチアの全島を同じ説明で済ませることはできません。火山岩からなる島など、地質的な例外も存在します。ダルマチア式という言葉は、沿岸に卓越する配置を示すもので、あらゆる島の個別の成因まで保証するものではないのです。
この海岸で海が新しくしたのは、岩の山並みの向きではなく、どこまでを陸地として見せるかでした。現在の島列は、古い山地の方向と、後から変わった水位の組み合わせなのです。