乾いた崖の途中から水がにじみ、緑の植物が垂れ下がる。ザイオン国立公園では、周囲の乾燥した斜面とは対照的な「ハンギングガーデン」と呼ばれる植生が見られます。崖の上を流れる川が、そのまま滝になっているとは限りません。
水は、雨や雪解け水として地面へ入り、砂岩の隙間や割れ目を通って地下を移動します。そして、通りにくい層に出会うと横へ向きを変え、崖の途中から現れることがあるのです。
古い砂丘が残した、水を通す岩
ザイオンの高い崖を特徴づけるナバホ砂岩は、古い砂丘の砂が固まった岩石です。砂粒同士の間には、水や空気が入る隙間が残ります。肉眼では一枚の固い壁に見えても、内部まで隙間のないガラスのような物質ではありません。
ただし、隙間が多いことと、水が速く流れることは同じではありません。隙間同士がどれほどつながっているか、砂粒を結び付ける物質がどこを埋めているかでも、水の通りやすさは変わります。大きな割れ目を通る流れと、細かな隙間をゆっくり進む流れも区別が必要です。
下へ進めない水が、横へ向かう境界
砂岩の下や内部に、水を通しにくい層があると、浸透した水はその境界付近でたまりやすくなります。下向きの移動が制約され、地層の境界や割れ目に沿って横へ流れ、露出した斜面へ達すれば湧水になります。
コロラド高原では、ナバホ砂岩と、より水を通しにくい層との組み合わせが、このような湧水を生む代表的な条件です。地下の貯水槽に蛇口が一本付いている姿ではなく、水の通りやすさの違う岩が接していると考えると、崖の途中から出る理由がつかめます。
特定の湧水の地層断面ではありません。矢印は多数の隙間や割れ目を通る流れをまとめたもので、一本の空洞や水の年齢を表しません。
今日の湧水が、今日の雨とは限らない理由
雨が降ってすぐ崖から出る水もあれば、長い時間を地下で過ごしてから現れる水もあります。米国地質調査所によるザイオンの湧水研究では、調べた水の性質に応じて、比較的新しい水と、千年以上の滞留時間が推定される水が区別されました。
これは、園内の湧水がすべて同じ年齢だという意味ではありません。水が通る経路と貯留される場所によって時間が違い、複数の時期の水が混ざることもあります。崖がぬれているからといって、その直前に上で雨が降ったと断定することはできないのです。
崖の一角だけに生まれる、小さな湿潤環境
水が安定してにじむ場所には、周囲とは違う植物が育つ条件が生まれます。日陰、岩のくぼみ、細かな土のたまり、継続する水分が組み合わさり、シダやコケなどの生育場所になります。ハンギングガーデンの緑は、単にその斜面だけ雨が多いという印ではありません。
地表ではわずかに離れた場所でも、地下水への接続が違えば、乾いた岩肌と湿った植生が隣り合います。地下の水路は見えなくても、植物の分布が、水の出口の位置を教えてくれることがあるわけです。
崖の真上だけではない、湧水を養う土地
湧水の出口は崖に見えていても、その水が地中へ入った場所は、出口のすぐ上とは限りません。岩の内部を横へ移動してきた水なら、離れた場所の雨が関係している可能性もあります。地表の小さな緑が、見えない広がりを持つ地下水系につながっているわけです。
このため、湧水を取り巻く環境を理解するには、ぬれた岩肌だけを見ても不十分です。どの地層へ水が入り、どの境界に沿って進むのか。目に見える出口と、水を補給する土地の両方を調べることが、乾燥地の小さな生息環境を支える条件の把握につながります。
岩を削る川と、岩を通り抜ける水
ザイオンの大きな峡谷は、隆起した地形を川が削るなどして形成されました。一方、崖の途中の湧水は、岩の内部を通る地下水の働きです。谷をつくる水と、崖を湿らせる水は関係しながらも、同じ経路をたどるわけではありません。
水を通す砂岩と、通しにくい層の境界がなければ、同じ位置に同じ緑が現れるとは限りません。ハンギングガーデンは、乾燥地に例外的に取り残された森ではなく、岩石の性質と地下水の流れが地表へ現れた、小さな生息環境なのです。