オハイオ川はミシシッピ川の「支流」と紹介されます。それなら、合流する直前の水量もミシシッピ川より少ないのでしょうか。実は、川の名前と水量の大小は、そのようには対応しません。オハイオ川は、合流点の水量に大きく寄与する川です。
米陸軍工兵隊の流域紹介では、オハイオ川が合流地点のミシシッピ川の流量の6割超を供給すると説明されています。ただし、これは毎日の比率を固定する数字ではありません。雨や雪解け、貯水池の操作などで、二つの川の流量はそれぞれ変わります。
カイロで出会う、二つの大きな集水域
オハイオ川は、米国イリノイ州南端のカイロ付近でミシシッピ川へ合流します。合流後の名前はミシシッピ川のままですが、そこへ届くオハイオ川の水は、流域の数多くの川を集めたものです。
その水系には、アレゲニー川、モノンガヒラ川、テネシー川、ワバッシュ川などが含まれます。一本の線に見える川の背後に、広い土地から水を集める網があります。川幅や名前の知名度だけで、集まる水の量を比べることはできません。
川の長さと、運ぶ水の量は別の尺度
長い川ほど必ず流量が多いわけではありません。流域の面積だけでなく、そこに降る雨や雪、蒸発散で失われる量、地下水からの供給などが関わります。乾燥した土地を長く流れる川と、雨の多い流域から水を集める川では、長さの印象と水量が逆転することもあります。
また、合流点より下流のミシシッピ川の流量を持ち出してオハイオ川と比べると、オハイオ川の水まで含めて比較してしまいます。二つの川の寄与を知りたいなら、合流前のそれぞれの流量を、対応する時期と地点で比べる必要があります。
流量を決めるのは、断面積と水の速さ
流量の基本は、一秒間に断面を通過する水の体積を求めることです。概念的には「断面積×平均流速」ですが、実際の川はどこも同じ深さ、同じ速さではありません。観測では場所ごとの違いを調べ、断面全体で運ばれる水を合計します。
たとえば、幅の広い川が浅くゆっくり流れ、幅の狭い川が深く速く流れている場合、見た目の幅だけでは大小を判断できません。図の数値はこの関係を示す仮の例であり、オハイオ川やミシシッピ川の観測値ではありません。
数値は仕組みを説明する仮の例で、オハイオ川とミシシッピ川の測定値ではありません。図の形も縮尺図ではなく、速度は断面平均です。
水位が高いことと、流量が多いことの違い
水面の高さを表す水位と、単位時間に流れる体積を表す流量は、同じものではありません。合流点付近では、片方の川の高い水位がもう片方の流れをせき上げることもあります。普段見られる水位と流量の関係だけでは、こうした影響を捉えきれないのです。
この場合、水位が上がったから同じ割合で流量も増えた、とは限りません。2023年の研究も、ミシシッピ川とオハイオ川などの合流点で、衛星による水面の高さの観測と流量の関係を調べました。同じ水位でも、合流する二つの流量の組み合わせが違い得ることは、水面の高さだけから流量を求める際の重要な制約です。
「6割超」という割合が指す、合流後の水
工兵隊の説明にある割合の分母は、合流した流れです。「オハイオ川の流量が、合流前のミシシッピ川の6割」という意味ではありません。仮に合流後の水を100とし、オハイオ川が60を供給すれば、もう片方は40。二つの寄与を比較すれば、60対40になります。
この例も、特定の日の観測値を示すものではありません。流量の比較では、どこで測った量を分母にしているかをそろえる必要があります。合流前の一本の川と、合流後の総量を混ぜるだけで、「支流の方が多い」という関係を逆に解釈してしまうのです。
日々変わる流量に合わせて、川の名前は変わらない
ある時期にはオハイオ川側で雨が多く、別の時期にはミシシッピ川上流側で増水することがあります。洪水の山が同じ日に合流点へ届くとも限りません。そのため、長期的な寄与、特定の日の流量、洪水時の最大値を混ぜると、比較の意味が変わってしまいます。
一方、地理上の川の呼び名は、水量の順位が入れ替わるたびに付け替えられるものではありません。「支流だから小さい」という想像を離れると、オハイオ川の重要さがはっきりします。ミシシッピ川という一本の大河は、名前の異なる流域から届く水によって成り立っているのです。