草の少ない斜面が幾重にも削れた、カナダ・アルバータ州のバッドランド。恐竜の化石が多いのは、恐竜が現在のような荒れ地を好んだためではありません。恐竜が生きた当時の環境と、化石が見つかる現在の環境は大きく違います。
鍵となるのは、骨を埋めた昔の川と、地層を掘り返す後世の水です。生物の多さだけでなく、埋没、保存、露出という条件がそろって初めて、化石を発見できる場所になります。
白亜紀のアルバータは、海辺の低い平野
恐竜州立公園で知られる化石は、約7500万〜7700万年前の白亜紀後期にさかのぼります。当時のこの地域は、浅い海の縁に広がる低い平野でした。現在の乾いた斜面から想像しにくい、川や湿った土地のある環境です。
そこには恐竜だけでなく、魚、両生類、爬虫類、鳥、哺乳類も暮らしていました。化石を含む砂岩や泥岩は、その環境をつくった川や氾濫原の堆積物でもあります。骨だけが過去を語るのではなく、骨の周囲の岩も、生息場所の手掛かりになるのです。
骨を壊す前に覆った、川の砂と泥
動物が死んでも、普通は体が分解されたり、骨が食べられたり、風化したりします。化石になるには、失われる前に地中へ保存される条件が必要です。この地域では、川の流路や泥のたまる場所へ遺骸が入り、新しい堆積物に覆われました。
川は骨を運び、集めることもあります。そのため、一か所から多くの骨が出ても、すべての個体がそこで暮らし、同時に死んだと即断することはできません。骨の並び方、欠け方、周囲の粒子などを調べることで、埋まるまでの出来事へ近づきます。
特定の化石の発見経緯や時間の長さを再現したものではありません。骨は一部が失われることもあり、埋まった全個体が化石になるわけではありません。
長く埋もれた化石を、再び地表へ出した氷と水
骨を含む地層は、さらに新しい堆積物に覆われて保存されました。ところが後の氷期には、氷河が上部の地層を削り、氷が融ける時期の大量の水が谷を深く刻みます。レッドディア川の谷には、こうして古い地層の断面が現れました。
恐竜が生きた時間と、今見える谷が形づくられた時間の間には、非常に長い隔たりがあります。恐竜が現在の谷底を歩いていたわけではありません。古い生活の記録を、新しい侵食が切り開いた場所と考えると、化石と地形の関係が整理できます。
雨の少ない土地でも進む、細かな谷の成長
バッドランドでは、比較的侵食されやすい堆積岩と、地面を十分に覆わない植生が組み合わさっています。雨が少ないから水の作用も小さい、とは限りません。降った水がむき出しの斜面へ集中すれば、短い時間でも溝を刻みます。
地層ごとの硬さの違いは、崖や棚、柱状に残る岩の形にも関わります。平らに見える台地の内部に化石があっても、厚い土や草に覆われていれば発見は難しいでしょう。ここでは侵食が多くの断面を用意するため、古い記録へ近づきやすくなるのです。
化石を見せる侵食と、化石を失わせる侵食
地層から骨が顔を出すことは、発見の始まりであると同時に、風化の始まりでもあります。埋まっていた間に守られた化石も、露出すれば雨や温度変化の影響を受けます。侵食が強ければ強いほど、良い化石が永久に残るわけではありません。
「化石が多い」という評判は、生物の豊かさだけでは決まりません。保存に適した堆積、広い露出面、調査の蓄積が、恐竜州立公園では同じ場所に重なりました。荒々しい現在の谷が、かつての豊かな平野を知るための断面になっているのです。