デルタと聞いて、海辺の三角州を思い浮かべる人も多いでしょう。ところが、カナダのピース・アサバスカ・デルタは、海から遠い内陸にあります。川が運ぶ水と土砂が、アサバスカ湖周辺の低地へ広がってできた、湖・水路・湿地の複合体です。
この湿地を支えるのは、一定方向に流れる平穏な川だけではありません。春に砕けた川の氷が詰まり、水位が上がり、ときには水路の流れが逆転することがあります。普段の川では届かない場所へ水を補う仕組みが、氷の堰に隠れています。
海ではなく、湖の西端に広がるデルタ
デルタは、川が運んだ土砂を、流れが弱まる場所へ堆積させることで成長します。受け入れる水域は海に限らず、湖でもかまいません。ピース・アサバスカ・デルタは、アサバスカ湖の西端で複数の河川と湖がつながる場所に位置します。
ただし、三つの川が同じ角度で湖へ注ぐ単純な三角形ではありません。アサバスカ川などが水や土砂を運び込み、北側を流れるピース川の水位も、連絡水路を通じてデルタへ影響します。湖の出口と隣接する川を含む、平坦な水の網なのです。
水面の高さが入れ替われば、流れも逆転
通常、デルタ側の水は連絡水路を通って北へ流れます。しかし、ピース川の水位が湖やデルタ側を上回ると、向きは逆に。土地が平らなため、周囲の水位の差によって水が南へ戻ることもあるのです。
これは、海の潮が遠い内陸まで押し寄せる現象ではありません。川同士と湖の水面の高さの関係です。地図に一本の下流向きの矢印を描くだけでは、高水時に生じるこうした往来を表せません。
氷の詰まりがつくる、短期間の高い水位
春に割れた川の氷が流れ下り、狭い場所などで詰まる現象をアイスジャムと呼びます。氷片が積み重なってできる、天然の堰です。上流から来る水量が同じでも、通り道を狭められた水は下流へ抜けきれません。堰の手前で水位が上がり、周囲へあふれる条件になります。
雪解けによる流量の増加と氷の詰まりが重なると、川は岸を越え、低地へ広がります。水の量だけでなく、「その水をどれだけ通せるか」が洪水時の高さを左右するのです。
氷詰まり地点より上流の横断模式図です。氷の堰自体は図外にあり、すべての洪水で全ての盆地に届くという意味ではありません。
普段の川より高い、取り残された小さな盆地
デルタには、英語で「perched basins」と呼ばれる小さな湖や湿地が点在します。近くの川の通常の水面より高く、常時つながってはいない盆地です。水を補うには、川の水位が間の地面を越えるほど高くならなければなりません。
川の流量がある程度増えても、水位が岸の高さを越えなければ、こうした盆地には川の水が届きません。毎年そこへ同じ量を流せばよい、という問題ではないのです。氷が詰まる時期と位置、雪解けの強さなどが、湿地の補水を左右します。
洪水の間隔が変える、草地と湿地の配置
定期的な浸水は浅い水域や湿った草地を維持し、水鳥などの生息場所を支えます。しかし、補水が長く途絶えれば、同じ景観は保たれません。蒸発などで水が減った場所へ、より乾いた土地に適した草やヤナギが増える場合もあります。
カナダの公園管理当局は、河川流量の調節と気候の乾燥傾向が重なり、大きな春の洪水の頻度に影響してきたと説明しています。湿地の保全で必要なのは、水の総量だけではありません。いつ、どの高さまで、どの経路で水が届くかという条件まで含めて、デルタは成り立っています。