黄河の水は、なぜ黄色く濁っているのでしょうか。水そのものに黄色い色素が溶けているのではありません。川に混ざった大量の細かな土が、光を散乱させ、黄褐色の流れとして見えています。
その土の大きな供給源が、中流域の黄土高原です。かつて粒を運び、積もらせたのは風でした。今度は雨と川が同じ粒を運び出すため、黄河の色には、水の流れだけでなく、風がつくった大地の歴史までかかわっています。
黄土高原は、風が細かな粒を積み上げた土地
黄土は、風で運ばれた細かな粒が厚く堆積したもので、中国北部の黄土高原に広く分布しています。主な粒は、砂と粘土の中間にあたる「シルト」。砂漠でよく想像する、ざらざらした砂粒より細かなものです。
黄土の材料は、岩石の風化や破砕などでできた粒が、乾燥した地域から風に運ばれてきたものです。すべてが一つの砂漠から一度に飛んできたわけではありません。気候の変化に伴って、供給源や運び方、堆積の進み方も変わってきました。
砂丘の砂より細かい粒は、風に巻き上げられると遠くまで移動できます。それが長い時間をかけて積み重なった結果、広い高原の表面を覆う厚い層になりました。黄河の濁りの前には、空気が土を運ぶ段階があったのです。
雨が黄土を削り、支流が本流へ集める
黄土高原を流れる雨水は地表の粒を動かし、小さな溝へ集まるほど強い力で地面を削ります。溝が谷へと発達する侵食の積み重ねが、黄土高原に複雑な起伏を刻んできました。
細かく、比較的崩れやすい土が厚くあることに加え、強い雨が降ること、斜面に水が集まること、地表を覆う植生の状態などが、土砂流出を左右します。雨が降った量だけでは、川へ出る土の量は決まりません。
削られた土は支流を通り、黄河の本流へ入ります。そのため、黄河が源流から河口まで一様に同じ色をしていると考えるのは正確ではありません。どの支流がどれだけ土を運んできたか、その日の流量はどうかによって、区間ごとの濁り方が変わります。
粒は見えるように拡大しています。黄色い成分が水に溶けた図ではありません。土砂の量は雨量・植生・ダムなどによって変わります。
水に浮く土と、水に溶けた成分の違い
濁った水に含まれるのは、小さな固体の粒です。砂糖が水に溶けたときのように、分子の大きさまでばらばらになった状態ではありません。黄河の黄褐色は、主に細かな堆積物が水中に漂うことで生じます。
大きな砂粒は比較的早く沈みやすい一方、細かな粒は水の乱れに支えられ、長い距離を流れていけます。ただし、川はいつでも同じ大きさ・同じ量の粒を運べるわけではありません。水が静かになると粒を支えにくくなり、そこへ土砂がたまるのです。
粒の色や濃度に加え、光の当たり方も見え方を変えます。「黄色い」という名前から、いつでも鮮やかな黄色を想像する必要はありません。現実の川は、茶色や黄褐色に見えることも多く、雨のあとと渇水時でも様子が異なります。
下流で川底が高くなる、土砂の逆説
山地から平野へ出た川は、一般に勾配が緩くなります。流れの条件が変わると、上流から運んできた土砂の一部が川底にたまります。黄河の下流では、この堆積が治水の大きな課題になってきました。
堤防は、洪水時の水と土砂が広い平野へ出るのを抑えます。しかし、土砂の行き先の問題まで消えるわけではありません。堤防の間で川底が上がり、その分だけ堤防を高くする対応が重なると、川が周囲の地面より高い位置を流れる区間が生じるのです。
土砂は平野を育てる材料であると同時に、川の出口をふさぐ材料にもなります。流路が変われば、土砂が届く場所も変わります。黄河が歴史上たびたび大きく流路を変えてきた背景には、水の多さだけでなく、この土砂の移動と堆積がありました。
河口の陸地をつくる土、海に削られる土
河口では川の土砂が浅い海にたまる一方、波や潮流はその土を別の場所へ運び去ります。届く量が持ち去られる量を上回れば陸地は増え、逆なら侵食される方向へ。デルタの広がりを決めるのは、こうした土砂の収支です。
黄河の流路が付け替えられた場所では、新しい河口側で陸地が成長する一方、土砂が来なくなった古い河口側で海岸が後退する変化が観測されています。川の一本の線を動かすことが、離れた海岸の形まで変えるわけです。
川の濁りは、単に水が汚れているように見える問題ではありません。その粒がどこで削られ、どこへ届き、どこに積もるかによって、土地の形が変わっています。
昔の黄河と、土砂を管理する現在の黄河
現在の黄河には、ダムや土砂を抑える施設、流域の植生回復など、人の働きが強く加わっています。貯水池は流れを弱めて土砂をとどめ、斜面の植物は雨が土を直接たたく作用や表面を流れる水の侵食を抑える場合があります。昔の黄河と、まったく同じ条件ではありません。
その結果、黄河が運ぶ土砂量は、過去の大きな流出があった時代と同じではありません。ただし、土砂が減ればあらゆる場所で都合がよくなる、とも限りません。下流の川底への堆積が減る一方、河口の陸地を補う材料も減り得るからです。
黄色い流れの背後には、風による堆積、雨による侵食、川による運搬、海辺での再堆積があります。黄河は、遠く離れた高原と海岸が、一粒ずつの土の移動で結ばれていることを示す大河なのです。