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アイルランドに泥炭地が広がるのはなぜか 水はけと冷涼な気候が残す植物

公開日

湿った草地の下に、植物の遺骸が何層にも積もっている。アイルランドの泥炭地は、単にぬかるんだ土ではなく、枯れた植物が分解しきらずに残った土地です。なぜ植物が腐って消えず、地面として厚くなるのでしょうか。

鍵は、植物が育つ速さと、枯れた後に分解される速さの差にあります。冷涼で湿潤な気候と、水がたまりやすい地形によって、後者が遅くなる。その小さな差が長い時間続くと、植物の積み重なった地層が生まれます。

植物の生産が分解を上回る土地

通常、枯れた葉や茎は微生物などによって分解され、含まれていた物質が再び環境へ戻ります。ところが地面が水で満たされると、空気中の酸素が内部へ届きにくくなり、分解の進み方が変わります。

植物が新しく加わる量のほうが、分解で失われる量より多ければ、遺骸は少しずつ蓄積します。これが泥炭であり、単に泥が川から運ばれてたまった地層とは異なります。

寒さだけが条件ではありません。冷涼な気候は水の蒸発や植物からの水の放出を抑える側に働きますが、分解を遅らせるうえでは、水位が高く保たれることが特に重要です。

分解が完全に止まっているわけでもありません。毎年加わる量と失われる量にわずかな差があれば、その差だけが積み重なります。草がたくさん生える速さを、そのまま泥炭が厚くなる速さと考えることはできません。地中に残るのは、分解などで失われた分を引いた後の蓄積です。

中央部に盛り上がる高層湿原

アイルランド中央部には、かつての浅い湖や低地で泥炭が積もり、周囲より盛り上がった高層湿原があります。「高層」とは高い山にあるという意味ではなく、泥炭の表面がドーム状に高くなることに由来します。

初期には地下水や周囲からの水の影響を受けていても、泥炭が厚くなると、その表面は下の水から切り離され、主に雨で養われるようになります。水の供給源が変われば、運ばれてくる栄養分や生える植物も変わります。

岩石や土の中を通った地下水は、途中で溶けた成分を運んできます。これに対し、主に雨を受ける表面には、地中由来の成分が同じようには届きません。水が豊富なことと栄養が豊富なことは別で、湿っていても栄養分の乏しい場所が成立する理由です。

盛り上がる泥炭地と、地形を覆う泥炭地
上は低地に厚く泥炭が積もる高層湿原。下は緩やかな地形を泥炭が覆うブランケット・ボグ。

代表的な断面を強調した模式図で、泥炭の厚さや斜面の角度は実測値ではありません。すべての泥炭地が同じ発達段階をたどるわけではありません。

西部や山地を覆う毛布状の泥炭地

別のタイプが、地形を毛布のように覆うブランケット・ボグです。雨が多く、水の失われ方が小さい条件では、くぼみだけでなく、緩い斜面にも泥炭が広がることがあります。

つまり、すべての泥炭地が昔の湖を埋めてできたわけではありません。中央部の高層湿原と、西部や山地の毛布状の泥炭地では、形成の出発点や地形との関係が違います。

広い茶色や緑の湿地として似て見えても、水がどこから来るのか、どの方向へ流れるのかは一様ではありません。保全や復元にも、その違いが関わります。

燃料になる泥炭と、地中に残る炭素

植物は成長するときに二酸化炭素を取り込み、その一部を体の材料にします。分解しきらず泥炭として残った有機物には、その炭素が含まれています。

泥炭が燃料として使われてきたのも、有機物を多く含むためです。燃やせば熱が得られる一方、蓄えられていた炭素の一部が二酸化炭素として大気へ戻ります。

採掘だけでなく、排水によって泥炭が空気に触れることも分解を進めます。見た目が草地のままでも、地下では長く蓄えた有機物が減っている場合があります。

草を植えるだけでは戻らない湿地の仕組み

泥炭地を復元する際に重要なのは、水位や水の流れを回復させることです。排水路が残ったままでは、表面に植物が増えても、内部の泥炭が乾く状態を止められないことがあります。

ただし、水を戻せば過去の生態系や炭素収支が即座にそのまま戻るわけではありません。泥炭の残り方や周囲の地形、植生の回復によって結果は異なり、温室効果ガスについても二酸化炭素だけでなくメタンなどを含めた評価が必要です。

アイルランドの泥炭地は、雨の多い国だから土が湿っているというだけの風景ではありません。水が分解を遅らせ、分解しきれない植物が地形を変え、その地形が次の水のたまり方を変える。生物と水が長い時間をかけてつくった土地なのです。

参考資料

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